日韓関係に似た緊張関係にフランスとアルジェリアの関係がある。
そのアルジェリアの独立50周年記念日に、閣僚9名を含む200名の大型使節団を率いてアルジェリアを訪問したオランド・フランス大統領は、アルジェリア両院議会で「132年の永きに亘り、貴国は植民地主義と言う残虐で不公正な制度にさらされました。私は、我が国が貴国を殖民地支配していた時代に、暴力、不当行為、虐殺、拷問などの忌まわしい事件を引き起こし、貴国民に多くの苦痛をもたらした記憶を尊重する義務があると信じています。」と演説し、フランスの侵した非を大統領として初めて認めた。
一方、その後行なわれた記者会見では「悔恨や謝罪を表明するために来たわけではない」と明言し,フランス国内右翼の強い抵抗や「謝罪すべきでない」と言う意見が大多数を占めるフランス世論への政治的配慮は忘れなかったが、国際世論は歴史認識の違いを埋める努力を始めたとして大統領の味方になった。
フランスの非を認めたオランド大統領の決断は、国内的には大きな政治的な賭けであったが、緊張関係に手をつけなかったサルコジ大統領に比べると、遥かに国益に貢献しと言うのが大方の世論である。
アルジェリア独立戦争休戦時に結んだ「エビアン協定」は、「今後は、裁判で双方の責任を追及しない」と規定している点で、韓国の日本に対する一切の請求権の解決などを取り決めた1965年の通称日韓基本条約とも類似している。
幾度となく異民族による侵略・屈服・服従を余儀なくされ続けた点でも、アルジェリアと韓国は共通しているが、韓国は過去の屈辱に対する「恨」を尊ぶ、特殊な文化を持つ国である事が、過去を水に流す事を潔しとする対極の文化を持つ日本との理解を更に難しくしている。
国際緊張で二国間の関係以上に重要なのが、国際世論の動向である。
私が見る英、米、ロシア、アラブ、中国、韓国の英語TV放送で判断する限り、世界では日本人が描く日本とは全く異なる日本像が出来つつあり、安部政権の「右翼偏向」に対する警戒心は思いの他強い。
唯一の例外は中国の拡大主義に反発するフィリピン外相の「日本再軍備歓迎」論であったが、日本政府が何の反応も示さない為か、忘れ去られようとしている。
最初の中国機の尖閣島上空飛来事件ですら、同日に行なわれた南京大虐殺の犠牲者を哀悼する大イベントと重ねて報道され、あたかも非武装の中国機に日本の戦闘機が邀撃した様な印象を与えてしまった。
その様な事もあり、現在の国際世論では、阿部内閣の閣僚が不用意な「右傾」発言をすれば、事実の有無に関係なく一斉に日本たたきが起きそうな情勢である。
英語には「事実より世間一般が信じる事が現実を支配する」と言う意味の「Perception is reality」と言う表現がある。
小は反捕鯨運動から、日中、日韓歴史認識紛争まで、国際紛争での日本の国際宣伝、世論工作の幼稚さは目を覆うばかりで、殆ど完敗状態が続いており、世論工作の出来ない外務省に外交を任せておいては、日本の国益は侵害されるばかりである。
中華思想と言う「優越感」を持つ中国と、過去への「恨み」を忘れない「劣等感」を中心とした韓国を同じに扱う事は禁物だが、「恨」を文化とする韓国に歩み寄りを求める事は不可能である以上、フランスがアルジェリアに示した様に、日本側が度量の大きさを示すことが、長い眼で見た日本の国益に沿う事だ。
オランド大統領の譲歩発言に対する世界の反応でも判る通り、韓国に対して「大人」の態度を示す事は「弱腰」ではなく、寧ろ世界の世論を味方に引き付ける「強さ」の表れで、結果として対中交渉にも寄与する国益に適った行為ではなかろうか?