”人は一介のチンパンジーに過ぎない!? ”長谷川寿一東大教授との議論で出た話である。動物行動学に大きなインパクトを与えてたのが、分子生物学の進歩だ。遺伝子レベルで動物の関係を分析した結果、「人は一介のチンパンジーに過ぎない」ことが判明した。人類は「チンパンジー・ヒトグループの一員で、もはや特別な霊長類ではない」ことがはっきりした。われわれはどのくらいチンパンジーに近く、どのくらい人間として特別なのか、今回はここで記してみたい。
遺伝子レベルでみると、なんとゴリラより人間のほうがチンパンジーに近い。「人はどのように特別なチンパンジーか?」の研究の第一人者である長谷川寿一東大教授と議論させてもらった。長谷川教授は進化心理学の第一人者でもある。これは進化と心の関係を研究する学問だ。
進化心理学から言えば、嫉妬とか恨みとかも含めて、人間が今もっている感情はサバイバルに必要だったということ。色んな哲学や宗教が抑えよう、なくそうとしている煩悩とか邪悪とされる感情も、生物としてのサバイバルには必要だったのだ。憎しみも落ち込みも進化のために必要だったのだ。
超ポジティブな”イケイケどんどん”だけでは人類の繁栄は厳しかっただろう。根拠のないポジティブ思考では自然界では淘汰されてしまう。イケイケにブレーキをかける、”うつ”も必要だった。嫉妬の感情がないと交尾して遺伝子 も残せなかっただろう。恨みや怒りもライバルとの生き残り競争に欠かせない感情だ。
ホモサピエンスの歴史はたかだか15万年。生物が生まれてからの時間を24時間とした生物時計の中では、人類の歴史はたったの30秒。生物の頂点に君臨しているかのようにふるまう我々人類だが、われわれは生物界の新参者に過ぎないのだ。また人類はその種の中で多様性が少ない。人類の個性と言っても、遺伝子の中では0.1%しか違わない。チンパンジーやゴリラのほうが同じ種の中で遺伝的な多様性がはるかにある。
人間はどこまでチンパンジーか? についてだが、まずわかりやすい共通点は、顔面表情筋の豊かさ。顔の表情を表す顔面表情筋の基本的な造りは、人間とチンパンジーは共通。また、チンパンジーは研究の結果、イメージ記憶ができる。人間でも、子供は大人よりイメージ記憶能力が高い。子供とカードゲームの神経衰弱をしたら、子供に負けることが多いのはそのせいだ。人間は大人になるにつれ言語に頼った記憶になり、映像で記憶するのが苦手になるのだ。
最も顕著なのは、オス同士が共謀するところ。これは人間とチンパンジーにしか見られない。ちなみにオランウータンは、群れではなくオスでもメスでも個別行動。ゴリラは一夫多妻制で、群れの中に別のオスが共存しない。チンパンジーは群れの中に複数のオスが共存し、力を合わせて別の群れに対抗する。狩猟採集生活をしたころの人類と同じだ。
オス同士の共謀で、戦争するところもチンパンジーと人間の共通点である。オスが集団で別の群れのオスたちを殺害する。見せしめの殺害もする。群れの中での権力争いも盛んで、年老いたボスや暴君などを他のオスが共謀して引きずりおろして殺すこともある。共謀するためのコミュニケーション手段として、表情筋が発達したと言われる。
肉食であることも人間との共通だ。共通点が多いチンパンジーと人類。しかし、人類が森を出て乾燥したサバンナに足を踏み入れてから人類は繁栄し、類人猿は衰退した。その差はどこから出たのか?続きは次回で。ヒントは「おばあさん」と「肉食度の違い」?