けさの日経新聞で、安倍首相がまた日銀に雇用拡大の責任を求めている。
[日銀には]実体経済についても責任を持ってほしい。それは雇用だと思う。雇用を最大化することもアタマに入れておいてもらいたい。米連邦準備理事会(FRB)は失業率の目標を掲げている。
FRBが失業率目標を打ち出したとき、私は「政治家は『インフレを起こせば景気がよくなる』と勘違いするのではないか」と書いたが、やっぱりこういうのが出て来た。もう一度、説明しておくと、これは「FRBが失業率を6.5%まで下げる」という目標ではない。バーナンキが説明しているように
長期的な失業率は景気の構造的な問題や経済政策によって決まり、金融政策によっては左右されない。その上で述べれば、6.5%の失業率は(金融政策でコントロールできる)目標ではなく、その水準に到達したら緩和的な政策を縮小し始めるという目安のようなものだ。
そもそも安倍氏は、日銀がどうやって雇用を拡大できると考えているのだろうか。たしかにインフレ率と失業率には負の相関(フィリップス曲線)があるが、それは因果関係を示すものではない。インフレが失業を減らすのではなく、成長率が上がると失業率が下がってインフレになるのだ。インフレのとき失業率が下がるのは、実質賃金を下げて労働者をだましているからだ、というのが自然失業率の理論である。
この点については「雇用は政府も非常に関係する話だ。日銀だけに[責任を]おっかぶせるつもりはない。厚生労働省や経産省などありとあらゆるところが関係するため、これを日銀に押し付けるのはどうか」と語っている麻生財務相のほうが常識的だ。
安倍氏のような間違った知識で日本経済の舵取りをするのは、日本国民の迷惑である。今夜9時からのニコ生アゴラでは「安倍首相のための財政・金融入門」と題して、田原総一朗さんが土居丈朗さんと深尾光洋さんに納得いくまでマクロ経済の基礎知識を質問する。みなさんの質問も受け付けます。