レックス・テイラーソンがトランプ「大統領」により次期国務大臣に任命され、エクソンの後任最高経営責任者には既定路線とおりダレン・ウッズ(現在President)が就任することとなった。今日紹介するのは、エクソンの現状を解説し、ダレンを待ち受ける大きなディレンマを指摘しているFT Ed Crooksの記事だ。見出しは “New Exxon boss in a T.Rex-sized dilemma”(Dec 16, 2016 around 2:00am Tokyo time)となっており、”Facing sluggish growth, Daren Woods must decide whether to do a transformation dale” というサブタイトルがついている。
一読して気になったのは、NY州検事総長らにより「気候変動を巡る対外発表が投資家をミスリードしていないか」という問題について捜査が行われていること、さらにはSEC(証券取引委員会)が「保有埋蔵量をめぐる社内評価方法の妥当性」について調査を開始している、ということが一切触れられていないことだ。11月21日にEdが書いた記事(弊ブログ#266「エクソンの新・最高経営者を待ち受ける困難」参照)では指摘している事項だ。
もし仮に、本件が刑事問題化して訴追されたら、レックスは国務大臣を継続できるのだろうか。刑事問題化しなくても、SECにより「保有埋蔵量」評価方法が指摘され、下方修正を強いられたら、2000年代初めにCEO、CFOおよび探鉱開発部門のトップ3人の辞任を余儀なくされたロイヤル・ダッチ・シェルの二の舞になるリスクはないのだろうか?
仮にこれらの問題が生じても、ダレンは精製販売および化学品部門の出身だから、無傷でいられ、エクソンの経営は万全だというのだろうか?
おそらくEdが追加記事をまた書いてくれるだろう。
その日を待つこととして、今日の記事の要点をかいつまんで紹介しておこう。
・批判する人々が指摘するように、大手石油会社というものがダイノザウルスだとしたら、その規模とエンジニアリング能力をもつエクソンこそ「業界のRexタイノザウルス」という「最上位の捕食者(apex predator)」だ。
・巨大かつ複雑な状態で存在している地下資源を開発するという、大手石油会社が占有している生態系内の得意分野では、エクソンに並び立つものはいない。問題は、これらの生態系が投資家の期待している高いリターンを支え続けられないかもしれない、ということだ。
・2014年夏からの価格下落に伴い、エクソンの特色であった財務体質の強靭さが衰え始めている。今年2月には、2011~2015年のあいだ、株主に750億ドルを還元した自社株買いを中断せざるをえなかった。また4月には、祖先会社を含めて1930年以来保持していた「トリプルA」の格付けを、Standard & Poor’sにより剥奪されてしまった。
・需要面では気候変動対応政策や電気自動車の増加という問題があり、供給面ではシェールとの競争がある。エクソンは、遅ればせながらテキサス州西部のパーミアンや北ダコタ州のバッケン地域で多くの資産を拾い集めている。生産量は増え始め、今も増え続けている。だが、エクソンほどの規模の会社には不十分なものだ。
・油価低迷によるキャッシュフローの低下が、エクソンの存在価値そのものである大型プロジェクトを削減せざるを得なくなっている。2015年には30万BOED(石油換算BD)相当のプロジェクトを始めたが、2016~17年の2年間には45万BOEDに減少する見通しだ。
・昨年末にはガス埋蔵量の下方修正(de-booking)を余儀なくされ、今年もまたカナダのオイルサンドの下方修正することになろう。
・低油価と成長鈍化という同じように困難な環境だった1990年代末、エクソンはモービルを吸収合併した。今回の下落の中で、(米中堅石油会社である)アナダルコ、オキシデンタルやパイオニア・ナチュラル・リソーシズなどを吸収合併する可能性が今年初めにはあった。BPすら対象になっていた。だが、もはやその可能性はなくなった。アナダルコの株価は45%上昇し、パイオニアも50%上昇している。
・2009年に410億ドルを投じて(シェールガスの最大会社だった)XTOエネルギーを買収したことが、次の買収をためらわせているのかもしれない。その後、ガス価格が急激に下落し続け、高値を払いすぎたと批判されているからだ。
・エクソンは、stability & reliability (安定性と信頼性)という社風を誇りに思っている。そのことは今回のトップ交代に関するプレスリリースでも強調している。だが時には、モービルを買収したことのように、跳躍する(leap)することが要求されている。ウッズにとっては、それはリスクだ。だが、何もせずに次の10年間、沈滞してしまうこともリスクなのだ。
編集部より:この記事は「岩瀬昇のエネルギーブログ」2016年12月16日のブログより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はこちらをご覧ください。