皆さまは、弁護士の知り合いはいるだろうか。もし、トラブルが、今日あなたの身に降りかかる可能性が高いとしたらどうやって身を守るだろうか。
アゴラにも記事を投稿いただき、各種行政委員会委員等も歴任している、荘司雅彦氏(以下、荘司弁護士)の近著『本当にあったトンデモ法律トラブル』(幻冬舎新書)には、今日にでも降りかかるかも知れないトラブルの事例が分かりやすく紹介されている。
法的トラブルは感情で始まり感情で終わる
荘司弁護士は「法的トラブルは感情で始まり感情で終わる」ことを主張している。「感情で始まり感情で終わる」ようなものを引きずっていくことは、精神的に決して好ましいものとはいえない。荘司弁護士の主張として次のようなくだりがあるので紹介したい。この言葉にすべてが集約されているように思う。
「紛争の発端が気持ちの問題であるように、紛争を最終的に決着に導くのも気持ちの問題です。過去を忘れて前向きに生きるか、いつまでも過去の遺恨を引きずったまま生きるか。それは結局あなたの気持ち次第なのです。」(荘司弁護士)
「一般に法的トラブルの解決が困難でこじれやすいのは、ほとんどが、『感情的に絶対に相手が許せない』『どうしても納得できない』という。気持ちの問題だからです。」(同)
例えば、近隣騒音を例に挙げればわかりやすい。近隣との関係が艮好なうちは、ピアノの音が流れてきても何も感じなかったのに、一度関係がこじれてしまうと神経を逆なでする我慢ならない騒音に感じてしまう。法的トラブルの多くはこれと同じ理屈。極めてドライと思われるビジネスシーンでも同じである。
「経営者や担当者が自らの落ち度を素直に認め、誠意を以て対応すれば、裁判沙汰になることは滅多にありません。ビジネス上のトラブル相談を聞いていても、相手の不誠実な対応や態度に対する感情的な怒りがほとんどなのです。」(荘司弁護士)
「ですから、日頃から最低限のマナーを守るよう心がけることと、無益な争いを避ける姿勢を持つことが、あなた自身の身を守るための秘訣です。」(同)
また、訴訟は正しいものが勝つわけではない。「ストーリー的に正しいか」「この人はウソをついていないか」という裁判官のもつ印象が、全体の流れに影響を及ぼすことも少なくない。民事の地裁判決では半数近くに和解勧告が出されているが、時間と費用を鑑みると無益な争いになりかねない。
サンクコストを日頃から意識せよ
世の中の諍いの多くは、実に小さくてつまらないことが原因で発生している。他人に迷惑をかけてしまったときに、「失礼」「すみません」の一言がなかったがために争いが大事になってしまう例は、枚挙にいとまがない。
「無益な争いを避ける姿勢とは、よく『狭い道で犬とすれ違ったら道を譲ろう』と表現されます。権利のための闘争をして犬をコテンパンにやっつけても、一度噛まれた傷の痛みは決して消えません。他人の挑発に乗って法廷闘争に持ちこんで勝利を収めても、それに費やした時間と費用は返ってきません。」(荘司弁護士)
「また、『サンクコスト』という概念を、常日頃から意識しておくことも極めて重要だと私は思います。サンクコストというのは、海の底に沈んでしまった物は泣こうがわめこうが引き揚げることはかなわないので『損切り』してしまおう、という考え方です。沈んだ物の何百倍もの費用をかけて引き揚げようとする人はいませんよね。」(同)
被害者が受けた痛みは、賠償金をもらったとしても決して消し去ることはできない。しかし、加害者に同じ痛みを負わせることもできない。
「裁判で解決できるのは、被害に対する金銭賠償にすぎません。よくニュースなどで、裁判で徹底的に真相を解明すべきだと叫ぶ声を耳にしますが、それは絶対に不可能です。裁判で争われるのは法律上の『争点』にすぎず、判決も、『争点』に対する判断を下すだけです。」(荘司弁護士)
世の中の弁護士にも色々な人がいる。いざという時に慌てないためにも、信頼できる弁護士とのコネクションを構築しておきたいものである。
尾藤克之
コラムニスト
<アゴラ研究所からおしらせ>
アゴラ出版道場、第2回は今春予定です。それに先立ち導入編となる初級講座が毎月開催中。次回は3月7日(火)の予定です(講座内容はこちら)。ビジネス書作家の石川和男さんをゲストにお招きして“先輩著者”の体験談もお聞きできます(お申し込みはこちら)。
初級講座は、毎月1度のペースで開催しています。1月31日開催の「第4回アゴラ著者入門セミナー」の様子はこちら。