在ジュネーブの国連人権理事会日本政府代表の上田英明人権人道担当大使(68)が今月20日、5年間余りの任期を終えて退官された、というニュースが入ってきた。
▲日本人権セッションの審査会議(2012年10月31日、ジュネーブの国連で撮影)
同大使は今年5月、国連拷問禁止委員会のメンバーから「日本の人権状況は中世のようだ」という発言が飛び出した時、「日本の人権は先進的で、中世のようではない」と答えた。すると、会議に参加していた外交官の間から笑い声が挙がった。その時だ。上田大使は「黙れ、シャラップ」と怒りを発したのだ。
運の悪いことに、その場にいた関係者から日本大使の「シャラップ」発言は世界に発信されてしまった。その結果、上田大使は「シャラップ大使」という汚名を着せられることになったわけだ。
上田大使の「シャラップ発言」は「品性のない発言」と受け取られ、批判されたが、同じ「シャラップ発言」で男の株を挙げた人物がいる。大使ではない。スペインの国王カルロス1世だ。
国王は2007年11月、チリで開催された第17回イベロ・アメリカ首脳会議で自国のホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相の演説を繰り返しさえぎったベネズエラのチャベス大統領(当時)に対して「いいかげんにしろ、黙れ」と発言したのだ。この「黙れ、シャラップ」発言はスペイン国内で「さすがにわれわれの国王だ」と受け取られ国王の人気が急騰、その発言内容をプリントにしたTシャッツがブームとなったほどだ。
当方の推測だが、上田大使はスペイン国王の「シャラップ発言」の逸話をひょっとしたら知っていたのではないか。だから同じ様に「シャラップ」と発言したが、人気が出るどころか日本のメディアからも批判された。明らかに上田大使の誤算だった。同じ「シャラップ」でも1人は男の株を挙げ、もう1人は批判にさらされたわけだ。
正直にいって、当方も上田大使の言動に驚かされたことがある。ジュネーブの国連人権理事会の「普遍的・定期的審査」(UPR)の日本人権セッションが昨年10月末開催された時だ。当方は記者席で取材していた。
上田大使が日本政府の「第2回政府報告書」を読み出したが、数分後、「あれ、行を飛ばしたようだ」と笑いながら、飛ばした個所から再読を始めたのだ。UPR会議の加盟国外交官たちから笑い声がもれたが、決して批判するといった性格のものではなかった。しかし、大使がその後も行を飛ばしたのだ。
大使の度重なるミスに、加盟国外交官から「何だ、しっかりしろ」といった怒りや「真面目にやれ」といった声が聞かれた。当方も「上田大使は集中力に欠けているな」と感じたほどだ(「あれ、行を飛ばしてしまった」2012年11月7日参考)、
その上田大使が激務を終えて退官された。今となって考えれば、「シャラップ」、「あれ、行を飛ばしてしまった」という発言は、上田大使の大らかな性格の表れではなかったかと思い直している。上田大使、お疲れ様でした。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年9月22日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。