カバン内シェア、というお話 - 小川浩( @ogawakazuhiro )

僕の持論というかオリジナルのロジックを一つご紹介します。マーケティングに通じる大事なことです。

それは『カバン内シェア』という考え方です。
考え方自体は非常に簡単。通常の人間は外出時に持ち運ぶカバンの中に入れられるモノしか持ち運べない、という当たり前の事実を考えると、我々が携帯できるモノは自ずから、そのカバンの中に入れて毎日持ち運ぶ、という選択肢の中でシェア争いをしなくてはならず、持って歩くのがしんどい重さになったときに、取捨選択から外されたものはカバン内シェアから脱落する。つまり市場から脱落する、というシンプルな考え方です。

(カバンにしてもクルマにしても家の中にしても、オフィスのデスクにしても、とにかく物理的な大きさに制限があるとき、必ずシェア争いが存在していると考えるべきです)

カバンの中に何を入れるか。通勤や通学にそれなりの時間と忍耐を使う社会人にとっては結構切実な問題ですね。
まず財布はいまのところトップでしょう。次が鍵、そして今では携帯電話でしょう。iPodなどの音楽プレーヤーもまだトップ5にははいります。女性なら化粧ポーチがくるでしょうし、学生なら教科書、ビジネスマンならさまざまな書類やノートパソコンあるいは書籍などが入ってくるでしょう。
この時点で、カバンは相当重くなっています。

通勤時間という、ある意味強制的に作られた可処分時間を人々は音楽を聴いたりメールを打ったり、本や雑誌、新聞を読んだりして過ごします。ある人はゲームをして時間をつぶしていますが、この基本的に身動きできない制限された空間と時間の中にあっては、できることは限られています。

この制限付き可処分時間を充ててもらうためのツールやサービスを各企業が争って提供しているわけですが、まずいわゆるPDA(携帯情報端末。いわゆる電子手帳)が落ちました。
理由はいくつかあります。まずスタイラスペンでの入力は揺れる車内では面倒だし両手を使わなくてはならないのでつり革を離さなくてはならない。それにスケジューラーやメール、あるいは単純なゲームならケータイでできてしまうからです。

iPhoneやAndroidなどのスマートフォンが普及すると、iPodなどの音楽プレーヤーやPSP、DSなどの携帯ゲームプレーヤーもカバン内シェアから脱落する可能性があります。GREEやモバゲーなどでみられるシンプルなゲームしかできないケータイと違って、iPhoneプラットフォームでのゲームはPSPら専門ゲームプレーヤーに引けを取らないからです。電話もメールも音楽もゲームもできるならば、スマートフォン一台で十分です。新聞や雑誌の多くも、スマートフォンによってシェアを落とします。読み物、という目を使う行為であれば、新聞を読みながらスマートフォンを触ることができず、カニばる(共食いする)からです。(新聞とiPod、ならば共存できたのですが)

財布や鍵は安泰かというとそうでもないですね。電子マネーがスマートフォンに完全にバンドルされるようになり、鍵も物理的なものから電子キーに変わっていくのも、時間の問題な気がします。となると、スマートフォンがあれば、大方の用途は済んでしまうことになります。

iPadがあの大きさを必要とするのは、実はスマートフォンとシェアをカニばることを防ぐためと、iPhoneとはいまのところ共存しているノートパソコンをカバン内シェアから追い出すためです。
iPadは、電車の中で使うには大きすぎ、重すぎます。しかも片手では使えないこともネックです。しかし、ノートパソコンも同じ事情があります。だから車内で使えないこと自体は問題ではなく、重いノートパソコンを持ち運ぶ代わりにiPadを選ぶ、という選択肢が今後は生まれてくるでしょう。ノートパソコンとiPadの両方持ち、という強者も当分は多く観られると思いますが、そのうちiPad一本になる、と僕は思います。

パソコンはオフィスに起きっぱなしにして、携帯にはiPadで済ませる。そうなると僕は思うし、僕はそうします。

結論として僕がいいたいのは、あらゆる生活シーンの中で『カバン内シェア』の考え方を適用することで、市場のシェアを推測できるということです。iPadとノートパソコン、スマートフォンと財布&鍵、という一見競合する商品ではないようにみられるモノが、実はカニばるということを認めるには、なんらかの生活上の制限条項を当てはめる必要があるということです。少なくとも日々持ち運ぶような商品については、カバンの中に入れておきたいか、重いのを我慢して持ち運び続けるか、という単純な選択肢に引き当てることが重要だと考えます。

機能やデザインとしては必要だし愛用したいが、毎日カバンに入れて歩くか、ということを考えたときに、カバンの中に入れておく優先順位に入るかどうか、下位であってもいいけど、脱落したら、それはもう価値ゼロ、ということなんだと考えるべきです。カバンの中にいれておけるモノの数は、結局そうそう変わりません。せいぜい5-6種類でしょう。そのシェアに入る商品になるかどうか。

僕は常に「カバン内シェア」というシンプルなコンセプトを忘れないように、繰り返し繰り返し、さまざまなシーンに当てはめて考えるようにしています。