大連立政権は政治を退屈させるか --- 長谷川 良

アゴラ

ドイツで9月22日、隣国のオーストリアで同月29日、それぞれ議会総選挙が実施された。ドイツではメルケル首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と野党第1党の社会民主党(SPD)の大連立政党の政権交渉が進行中だ。一方、オーストリアではそれより少し早く、与党社会民主党と国民党の大連立政権の継続が内定し、現在、両党間で大連立政権発足を目指して交渉が進められている。大連立政権が実現した場合、ドイツは4年ぶり、オーストリアは続投を意味する。 


ドイツでは10月20日、社民党が幹部会でCDU・CSUとの大連立政権を目指すことを決定したばかりだ。両党は外交・国防、財政、エネルギーなど12作業グループと4サブ・グループを設置して、各テーマごとに専門グループの間で政策協議が行われる。

社民党側は最低賃金(時給8・50ユーロ)の導入を選挙公約としただけに絶対譲れない。CDUは「旧東独の雇用を奪い、中小企業経営者でも強い反対の声がある」として拒否してきたが、ここにきて社民党の主張に歩み寄る姿勢を見せている。ただし、富者への増税、欧州金融取引税の導入問題のほか、ギリシャへの追加財政支援問題、緊縮政策と経済成長とのバランスなど、両党が対立するテーマには事欠かない。「増税は必要ない」(ショイブル財務相)というCDUに対して、社民党がどれだけ譲歩を引き出すことができるだろうか。

ちなみに、メルケル第1次政権(2005年~09年)は社民党との大連立政権だった。社民党は大連立政権に意欲はあるが、不安もある。「メルケル首相主導の連立政権に参加した政党は次回選挙で必ず敗北する」というジンクスがあるからだ。社民党は2005年、メルケル第1次政権に参加したが、次期選挙(09年)で得票率を大きく落とし、メルケル首相のCDUだけが独り勝ちした。メルケル第2次政権の政権パートナー、自民党は今回、議席を完全に失うという歴史的敗北を喫したばかりだ。第2党として、社民党がそのカラーを発揮できない場合、同じことが生じる危険性は払拭できない。

一方、オーストリアでは8作業会に分かれ、両党の担当議員が交渉に当たっている。ファイマン首相が率いる現政権の継続ということもあって、両党はファミリーのような雰囲気で政権交渉を行っている。ただし、教育問題では、14歳まで一律制学校システムを主張する社民党に対し、国民党は「子供の能力によって自主的に選択できる教育システム」を擁護するなど、両党は対立している。富豪税を要求する社民党に対し、増税反対の国民党といった具合で、大連立政権の場合、抜本的な改革は元々期待薄だ。両党の一致点は、政権政党の特権、甘味を失くない、というところだろう。

第2次連立政権の課題は「第1次政権とは違う」ことを国民にどのようにアピールするかだ。最も簡単な道は閣僚の顔を変えることだ。国民党党首のシュビンデルエッガー外相が財務相ポストを担当、科学担当省を未来問題担当省に併合するなど、舞台裏で既に動きがみられる。

ドイツもオーストリアもクリスマス前に大連立政権の発足を目標に動き出してきた。独社民党の場合、連立交渉が終結した段階で47万人の党員に書簡でその是非を問う予定だから、多少の紆余曲折は考えられる。

両国の国民の中には、「多難な時代を乗り越えていくためには大連立政権が最善の選択肢」という点でほぼコンセンサスはあるが、野党勢力の存在感が一段と薄くなる一方、「政治は益々退屈となっていく」という声もある。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2013年10月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。