5月12日に総務省の「電波利用料制度に関する専門調査会」が実施した意見聴取で、移動通信事業者が周波数オークションの導入に反対したとの報道がある。今のところ総務省のサイトには各社の資料が掲載されていないので、報道を頼りにするしかないが、各社の主張には納得できないところがある。
日経ITProの記事については池田信夫氏が疑問点を指摘しているので、ここではSankeiBizの記事について指摘しよう。
もっとも気になったのはUQコミュニケーションズによる「海外では、高騰した落札額の支払いで企業が疲弊し、サービス提供に支障が出た例もある」という主張である。これを受けて、SankeiBizの記事タイトルは「電波オークション、携帯事業者が反対 『経営疲弊の要因』」となっている。
第三世代携帯電話の周波数オークションでは、ドイツやイギリスで確かに落札額が高騰した。しかし、この落札で疲弊したはずのT-Mobileは、今、本国ドイツに加え、アメリカ、イギリス、オランダ、ポーランドなど広く欧米で移動通信事業を展開している。09年末の契約者数はドイツが3910万でアメリカが3380万、08年末でイギリスに1680万など、そのプレゼンスは大きなものだ。イギリスのVodafoneも、同様に世界各国で移動通信事業を営み、09年3月期の契約者数は合計で3億を突破している。(数値は両社の発表による)
T-MobileやVodafoneが世界で事業を展開し成長を続けているのに、タダで免許を手に入れた日本の移動通信事業者は国外でのプレゼンスがないに等しい。これはどうしてなのか。
移動通信の経営が疲弊する原因は周波数オークションではない。世界市場で闘うよりも「神の御加護(タダの周波数)」を求める、そんな無能な経営陣が経営するから疲弊するのだ。
「電波利用料制度に関する専門調査会」はなぜ疲弊した移動通信事業者から意見聴取するのだろうか。引き続き来週17日には放送事業者から意見聴取するという。どんな意見が出るか、もう結果は見えている。「各社は導入反対の意見を表明」するに決まっている。そんな意見聴取に無駄な時間を割くのは止めるべきだ。
世界各国で周波数オークションは当たり前のこととして導入されている。鬼木甫氏がその状況を整理しているが、OECD加盟30カ国のうち23カ国で導入済みで、OECD非加盟国でもインド、インドネシア、シンガポール、タイ、台湾、香港、マレーシアなど21カ国が周波数オークションを用いているという。
主要国ではすでに当たり前になっている周波数オークションについて未だに前に進めない日本の状況は異常というしかない。
山田肇 - 東洋大学経済学部
コメント
前回の山田氏の論考に感銘を覚えました。
たとえばカーテレマティクスがちっとも高度化しないのは何故でしょうか?
車の拡張機会の損失を、ソニー社のnav-uのような、車のダッシュボード上に吸盤でポン付けできるカーナビは解決します。車中や移動先、移動後の経験の振り返りといったところでサービス市場の創造をもたらす大きな転換になるだろうと感じています。
今月末でサービスは終了しますがナップスター社の定額制の音楽サービスは、ストリーミングとダウンロードに対応していて、インターネットに繋がっていればどこでも音楽を追加して聴くことができます。モバイルでパケット接続なら、電波が途切れても追加しながら移動できるので遠出する時に便利です。CDのリッピングやiTunesで音楽を購入し保守するということにすら違和感を覚える私は、次世代ウォークマンはナップスターのようにあるべきだと感じています。
少なくとも私にとってiPhoneやiPadの誘致やSIMロック問題は通信業者の事業創造力を疑う機会です。SIMロックを解除することで端末メーカーが半端な端末を定期的に出すことや、せっかくよいデザインを見出しても誤った判断により捨ててしまうといったことを止めるでしょう。SIMロックを解除しても独自のサービスを無線LANと自社回線に限定して提供すればよいでしょう。
未だに家電、AV、ゲーム機、カーナビ、携帯音楽プレーヤーなどをバラバラに設計している製造業を束ねることができるのは通信業ではないのでしょうか?
技術や費用の制限はマーケティングで補えばよいのです。潜在顧客の誰もが完璧な商品やサービスを求めてはおらず、また、情報基盤(市場)に完璧な時点は存在し得ません。
(グーグルって常にBetaって書いてありますよね)
ミッションもビジョンもない足の引っ張り合いは、政治でも経営でも、ろくでなしです。
制度を見直さずして日本はグローバル化で何を売るつもりなのでしょう?