米中首脳会談の前日(5日)、北朝鮮は中距離弾道ミサイルを発射した。ミサイルは約60キロ飛行した後、落下した。日米韓は「ミサイル発射は失敗した」と推測している。飛行距離が短いうえ、高度も十分ではなかったからだ。米軍関係者は「液体燃料のスカット型中距離ミサイルだろう。ミサイルは発射後、制御不能に陥った」(読売新聞電子版)と分析している。
日米韓は北側の核実験やミサイル発射を監視衛星で24時間マークしている。だから、北側が核実験の準備に入った場合、即、「実験が近い」と警告してきた。ミサイル発射でも同様だ。もちろん、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の場合、監視衛星でキャッチしにくいので、事前予測は難しい。ただし、北側がSLBMを実戦配置できるまでにはまだ時間がかかると予想している。
米韓両国は米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の在韓米軍への配備を進めているが、問題は、北のミサイルが制御不能に陥る回数が多いことだ。
日米韓は北のミサイルを打ち落とすために待機している。発射されたというシグナルが監視衛星から届いた場合、ミサイルの軌道を即計算してそれを打ち落とす体制に入る。問題は、軌道計算通りにミサイルが飛んでくれば撃墜できるが、北のミサイルが突然制御不能に陥った場合は大変だ。軌道計算のやり直し時間はない。
北が発射した中距離弾頭ミサイルが突然、軌道コントロールを失い、平壌当局の意に反してソウル市に落ちた場合を考えてみてほしい。ソウル市民はパニックに陥り、在韓米軍は出動し、南北間で本格的な戦争が始まるかもしれない。
国際社会の制裁下にありながらも北は核開発、ミサイル開発を進めてきた。不足する部品や機材をカバーするために、北の科学者は独自の創意工夫をしてきた。そして完成した核兵器を実験し、ミサイルを発射してきた。
しかし、北は過去1年間で数多くのミサイルを発射したが、失敗も少なくない。すなわち、北ミサイルは制御不能に陥る危険性が依然かなり高いのだ。
朝鮮半島で武力衝突が勃発した場合、金正恩氏は通常兵器で不利となれば即大量破壊兵器を使用するだろう「『白旗』を掲げない金正恩氏への恐怖」2017年2月27日参考)。
当方は以前、「北ミサイルは飛行中、、制御不能となって日本海に落ちた」というニュースを聞く度に、「北のミサイル開発はまだ危険水域まで達していないな」と安堵したが、制御不能の北のミサイルがひょっとしたらもっと恐ろしいのだ。のんびりと構えておれない。
少し話が飛ぶが、中国の習近平国家主席はトランプ米政権の対中政策に神経質となっているが、中国が最も頭を抱えていることは、トランプ大統領の対中強硬政策ではなく、トランプ氏の対中政策が日々変わることだというのだ。台湾政府と接触したかと思うと、その翌日、「2つの中国を認める考えはない」と発言するトランプ氏に中国側は困惑しているのだ。
全てをデジタル化し、データに基づいて“次の一手”を計算する21世紀の社会で、「計算できない」ということは最も恐ろしいことなのだ。同じことが“制御できない”北ミサイルにも言えるわけだ。デジタル化されたデータにミサイルが機能しないことを意味するからだ。
繰り返すが、制御不能のミサイルを大量に保管する北軍は、制御可能で緻密なミサイルを有する米軍より怖いのだ。日米韓の地上配備型迎撃システムは計算通りに飛行するミサイルなら打ち落とせるが、どこへ飛んでいくか計算できない制御不能の北のミサイルを打ち落とすことは至難の業だからだ。
「北のミサイルが突然制御不能となって墜落しました」というニュースは、金正恩労働党委員長にとって間違いなく凶報だが、国際社会にとっても不吉な知らせとなるのだ。核兵器を搭載した制御不能の弾頭ミサイルを想像してほしいのだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。