【映画評】パージ:大統領令

The Purge: Election Year (Blu-ray + DVD + Digital HD)

年に1度、12時間だけ全ての犯罪が合法化される法律“パージ”。貧困層を排除しようするパージに反対する上院議員ローンと、犯罪率を低下させたパージを擁護する極右政権NFFAが、国内を分裂させていた。パージの是非を問う大統領選が進行中に、運命を左右する新たなパージがスタートする。NFFAから命を狙われるローン上院議員と彼女の護衛を務めるレオは武装集団に襲われる。はたして彼らは悪夢の12時間を生き延びることができるのか…?!

年に1度だけどんな犯罪も許可されるという歪んだ制度が存在する社会を描く人気シリーズの第3弾「パージ:大統領令」。第1作目のイーサン・ホークが早々と降板したせいか、第2作「パージ:アナーキー」ではトーンダウンした感があったが、この第3弾は、幸か不幸か、苛烈な大統領選挙やトランプ政権誕生といったアメリカの現実を反映してしまい、シリーズ最高の問題作になってしまった。非現実的な設定が持ち味だったこのシリーズが、あまりにリアルに傾いたのは、皮肉な話である。狂気の法律パージは、表向きは、国民のガス抜きのためのもの。犯罪は確かに激減したが、真の目的は、富裕層による、貧困層や弱者という経済的負担の排除と、差別主義的な人口抑制なのだ。パージを利用して、政敵を亡き者にしようと企むNFFA。ローン側には内部に裏切者もいる。ついにパージの火ぶたが切って落とされ、そこからは怒涛のサバイバルが始まるという展開だ。パージの裏側で、富裕層や保守系政治家、教会や保険業界、そしてマスコミの思惑がからみ、事態はカオス状態に。パージ反対派のローグ上院議員はヒラリー・クリントンを意識しているのは明らかだが、彼女を守るシークレット・サービス役で警官レオが登場するのが、シリーズを見てきたものとしては嬉しいところだ。トンデモない設定ながら、スマッシュ・ヒットを記録し第3作まで作られたのは、こんな法律があるのも悪くないと、心の奥底で共鳴している人がいるからだろうか。そう思うと背筋が凍る。ともあれ痛烈すぎる政治的メッセージが込められたサバイバル・スリラーとなった。
【65点】
(原題「THE PURGE: ELECTION YEAR」)
(アメリカ/ジェームズ・デモナコ監督/フランク・グリロ、エリザベス・ミッチェル、ミケルティ・ウィリアムソン、他)
(無法地帯度:★★★★★)


この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2017年4月26日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は公式Facebookページから)。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。