3月16日に予定されているクリミアの住民投票。その投票の選択肢は二つしかないとされています。われわれクリミア自治共和国の住民はあの憎きウクライナの新政権の下、苦しい生活を続けるのか、それとも、われわれの祖先である大ロシア帝国にその身柄を預けるか、であります。
この選択肢に対する検討期間があまりにも少ないということは以前指摘しましたが、もう一つ、この選択肢そのものには瑕疵があるということを今日は指摘しておきましょう。
私がクリミア自治共和国の議長であれば住民投票に際して以下の選択肢を提供します。
選択肢1 ウクライナ新政府の支配に引き続き残り、自治共和国として存続する
選択肢2 ウクライナ新政府の政策発表と欧米ロの新政府に対する支援、姿勢を確認したのち、一定期間を経て再度住民投票を行う
選択肢3 ウクライナ連邦政府の政策運営からより高い自治権、運営権を確保する(具体的な内容が必要ですがイメージとしてはカナダのケベック州のように考えています)
選択肢4 ウクライナ新政府と一線を画し、独立運動を展開する。但し独立に向けての支援を第三国に求めるフレキシビリティはあるものとする
私は選択肢の中にクリミア自治共和国が提示しているような「ロシアに併合してもらう」という二段ジャンプをする選択肢は入るべきではないと思います。これは西側先進国ならば100%クリミア自治区の議長のライアビリティに問われる事態となります。理由は不明瞭な前提があるにもかかわらずそれを明示せず選択肢としたから、であります。
その二段ジャンプの一つ目とはウクライナの一自治共和国が住民の「好き嫌い」で、この国からあっちの国と一緒になる、ということが国際世論上可能か、ということです。ではわかりやすい例を出しましょう。
日本の隠岐の島に大量の韓国人が移住し、そこで住民投票をした結果、「われわれは韓国政府と一緒になるべきだ」と言ったら隠岐の島は韓国になることができるのでしょうか? もちろんありえません。それは国家というタグがあり、島の利益は住民とその島の不動産所有者、ビジネス、事業会社という直接的受益者のみならず間接的権利を有するすべての日本人とその所轄である国家などあらゆる関連者によって組成されているものであり、住民の意向で国家を選べるほど自由度は許容されていないからであります。
ところがクリミアはまさにそれをしようとしているのです。
次のジャンプとは仮にクリミア自治共和国がわれわれはロシアと一緒になる、と決議してもロシア側はそれを何ら承認していないということです。ロシアは仮にそういう選挙結果が出ればロシアの最高決定機関でそれを決議し、最終的にプーチン大統領が判断を下す、というプロセスをすることになります。世論はプーチンはYESと言うに決まっているさ、と思っていますが、それはは案外早合点かもしれません。なぜならプーチン大統領も多面的思考をすると思われるからです。
私がプーチンならクリミアはほっておいてもロシアファン。ならば、ロシアの影響をいつでも反映させることができる。今、欧米とこれ以上、論戦を続ければ今までのプーチン>オバマの構図が崩れる可能性がある。ヨーロッパはどっちにしろ中立でロシアに敗北はないのだから外交上一本上手を取って貸しを作る方がベター、と考えます。つまり、クリミアは戦略上の出汁であります(過去、何度も揉めた場所というのは外交策略のためであってそれは結果として政治的なゲームに使われる結果となったのではないでしょうか?)。
こういう風に詰めて考えてみればファクターはかなり多く、流動的な部分もあると言えそうです。それにもかかわらず、今週日曜日に住民投票を強行するとすればそれはクリミアの失敗に終わると考える方がナチュラルになります。私はいまだ、住民投票の無期延期という選択肢がどんでん返しで起きると期待しているのですが、多分少数派かもしれません。
どうなるのか、あと残された日はわずかです。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年3月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。