国際標準化の現場 - 真野 浩 -

真野 浩

 先週、北京で開催されたIEEE802 Wireless Interimで、私はIEEE802.11 Fast Initial Authentication Study Group(FIA SG)のChairに選任され、Chairとして一週間の会期を過ごした。


 このFIA-SGは、日経の記事にあるように、今の無線LANを、より簡単、安全に使えるようにしようという標準提案で、3月の会合で私が動議提案し、採択され、SGが設置された。 このSGの目的は、PAR & 5Cという標準化プロジェクトの承認のための文章作成を行なうことである。 ここでは、特定の技術や製品について議論するのではなく、広くその標準化による市場成長性や技術的可能性、他標準との整合や経済性などがまとめられる。
 IEEE802.11の会議は、全てRobert’s rule of order に沿って行なわれ、原則として機関決議は、75%の賛成が必要となる。 さらには、上位の委員会から作業班(WG)、SGという階層構造があり、一定のルールによって、意思決定がエスカレーションされる。 このため、タイミングを逸すると、数ヶ月も時間がかかってしまう事も多い。
 さて、今回、我々のSGでは、北京会合中にPAR&5CのWG承認まで進めようという人と、情報のより精査を求める人がいて、割り当てられた会合時間内では、SGとしての意思決定ができず、追加したアドホック会合での非拘束投票結果をもって、WGに対して個別動議を行なったが、残念ながら66%程度の賛同となり、次回会合まで持ち越しとなってしまった。
 この一連の動きのなかでは、各SGやTaskGroup(TG)のチェアの会合もあり、そこで自分のSGの動向を説明すると、すかさず他のチェアが廊下に出て、誰かに連絡をとったり、コーヒーブレークの折に各人の帰国日を確認して票読みをしたりと、それなりの情報戦が展開された。
  このSGは、私を中心にした仲間が提案者であるが、そこに参加しているのは、もっぱら欧米の企業と研究者で、我々は標準化のネタの提案と議論の場をつくり、そのスタートを切らせたと言う感じだ。
 つまり、我々の持っている特定の技術を持ち込んで、これを標準にしましょうという訳ではない。 もちろん、我々にはそのような実例も実装技術もあるのだが、それは今のタイミングでインプットするものではないし、それをしたら総スカンを食らってしまい、なにもスタート出来なかっただろう。
  さて、通信の国際標準化というと、どうしても総務省などはITUに注力しているが、今や産業競争力のある標準として、IEEEやIETFのフォーラム型は、デファクトスタンダード型標準の主流である。 これらフォーラム型の標準プロセスは、デファクトの押し売りでは通じず、そのコミュニティにいかに寄与し、また場の創成に貢献するかが重要な要素となっている。
  国際標準化の推進による国際競争力を掲げる霞ヶ関な人達が、こういうフォーラム型標準化プロセスへの認識をしっかりと持たないと、従来のITU的国際標準だけを追いかけていては、産業と乖離した押し売り標準化に陥り、結果として標準として採択されても市場競争力がないことになってしまう。