6月18日に、新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオが閣議決定され、経済産業省から発表されています。中味はごく正論であり、よく出来ていると思います。本文で54ページ、さらに別表で、それぞれの7つの戦略の工程表が加わったものです。
新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ(PDF資料)
しかし、おそらく、本当にこの新成長戦略が、実現出来るのかという疑問、それが新たな歳費を増やし、「大きな政府」を生み出すことにならないかという懸念を示す人も少なくないでしょう。
なぜでしょうか。工程表まで示されてはいるものの、まだまだ「いかに」実現するのかのリアリティや、説得力が弱いからです。
もちろん、「いかに」も触れられているのですが、どれだけの投資を行えば、どれだけの効果があがり、さらに費用も削減できるのかが描かれていないからだと思います。つまり生産性の問題です。
とくに、巨額の財政赤字を抱えている今は、安い投資で効果をあげ、費用削減、歳出削減にもつながるか、つまり生産性をあげていく知恵が求められているわけで、政策効果が問題になってきます。もっと削減効果なり、費用対効果のところの議論が必要だということでしょう。
生産性を高めなければ、大きなアウトプット、つまり快適な医療や介護であれ、農業や環境であれ、それを追求すればするほど、どんどんコストが上昇します。このコストは、投入する税金が増えるか、受益者が大きな負担をすることになってしまいます。
しかも、日本が長い間、成長が止まってしまった原因は、政府部門が、「第一の道」の公共投資に頼り、経済効果が薄い、あるいはまったくないところに投資を行ってきてしまったことと、政府部門も、民間部門も、情報通信革命や、経済のグローバル化に乗り遅れ、そんな変化を取り込んだ変革が進まず、結局は、生産性をあげることができなかったからです。それで、国際競争力も低下してきました。
なにも難しい話ではありません。生産性は、どれだけ少ないインプット、つまり安いコストや少ない労働力で、どれだけ高いアウトプット、つまり付加価値の高い商品やサービス、あるいは「しくみ」が生み出せるかの関係で決まります。費用対効果の問題です。
そして、生産性を画期的にあげるには新しい発想やアイデア、また技術が必要になります。イノベーションとは、抽象的な話ではなく、インプットとしてのコストが飛躍的に下がり、これまでと同じアウトプットが得られるようになるか、同じコストであっても、飛躍的にアウトプットが大きくなるか、もっとも素晴らしいのは、コストが下がって、アウトプットも大きくなることです。
そして、技術やビジネスのしくみなどで、イノベーションを起こした産業は、古く非効率な産業に取って変わっていきます。それが経済発展の活力になってきます。
以前、なにかの対談で、電子カルテに関して、仙谷官房長官が、国家戦略担当相の頃だったでしょうか、電子カルテはいい、電子カルテに打ち込む人の雇用も生まれるという発言をされたことがありますが、そんな発言をうっかりされたということは、世界は生産性をめぐる激しい競争が繰り広げられており、生産性を高めることの重要性については、ご理解されていないと感じてしまいました。
使い易い、インプットしやすい端末やシステムであれば、そんな打ち込む人は必要ありません。人材はもっと生産性の高い仕事、つまりアウトプットの大きな仕事をしてもらうべきなのです。
電子カルテで、薬や検査が二重になることが防げれば、医療費の削減にもなります。受付から、治療、支払いまでがシステムでつながっていれば、患者の人が待つことも、病院の事務の手間も省けます。地方の病院と専門医のいる都市部の病院が通信でつながれば、高い交通費を負担することなく、高度な医療を受けることができるようになります。それが生産性をあげるということです。
おさらいになりますが、「新成長戦略」は、グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略、ライフ・イノベーションによる健康大国戦略、アジア経済戦略に加えて、観光・地域活性化戦略が柱になり、それを支える成長エンジンとして、科学・技術・情報通信立国戦略、雇用・人材戦略、金融戦略の七つの戦略が描かれています。
しかし、生産性を高めていき、さらに成長エンジンとなる鍵をもっと絞れば、情報通信革命だろうと思っています。
先週、Ustreamとニコニコ動画で、iモードを立ち上げた立役者でもあり、現在は、さまざまな企業の社外取締役をされている夏野剛氏が司会を行い、孫社長が、「光の道構想」に関して池田信夫教授と対決する討論が生中継されました。この討論会もぜひ御覧になることをお勧めします。その時も、お三方が一致していたのが「情報通信革命」こそがもっとも重要な成長エンジンであり、もっとクローズアップされるべきだということでした。
光の道2Part1
光の道2Part2
この対談は、第一回は、日本が情報通信革命に遅れたのは、インフラの問題ではなく、利活用の問題だと「光の道」構想に異論を唱えたジャーナリストの佐々木さんと孫社長の対談があり、さらに「電波の道」を一貫して唱え、「光の道」構造に異を唱えられていた池田信夫教授と孫社長との熱いバトルです。
そして、もっといえば、夏野剛氏が、情報通信革命のいわば象徴的な存在である電子カルテにしても、電子教科書にしても、その導入のネックになってくるのは、各省庁だろうと懸念されていましたが、既得権益を持っている人たちも政治家を使って、激しい抵抗をしてくるだろうと思います。その抵抗の壁を破るのは、密室の議論ではなく、国民との間の開かれた議論だと言う孫社長の考えには全面的に賛成いたします。