日本の家電各社が黒字転換をしたというニュースは明るい材料としても、アップルの2010年4-6月期の決算で、売上高41%のアップ、純利益46%のアップという決算の前には霞んでしまいます。
そのアップルと電子書籍で競い合っているアマゾンも、第二四半期決算で、売上高が前年同期比41%のアップ、純利益は46%のアップと大変な勢いです。
日本ではいまだに、電子書籍の潜在力やその衝撃を疑っている人がいるなかで、アマゾンの発表によると、2010年前半における電子ブックの販売数は前年同期と比較して3倍規模にまで急成長したようです。
さて、日本はこの電子書籍については、携帯でのコミック市場はあるものの、未だに、出版側が門戸を閉ざしていることもあって、作家や独立系の出版社などが実験的に出版を始めたばかりという段階です。残念ながら米国と比べると周回遅れの状態になっています。そのためにアマゾンも、アップルも日本語の電子書籍販売は展開していません。
しかし、大手印刷会社の大日本印刷や凸版が電子書籍販売市場に参入したり、米国で展開しているSONYだけでなく、シャープやNECも電子書籍リーダーに参入する動きがようやくでてきました。そういった動きにあわせるかのように、アマゾンが8月下旬に売り出す電子書籍リーダーKindleは日本語対応ししてきたことが報道されています。いよいよ日本での電子書籍市場も熱い競争が始まりそうです。
新キンドルは日本語に対応 電子書籍端末の競争激化
http://www.47news.jp/CN/201007/CN2010073101000698.html
さて、日本でもアップル対アマゾンの電子書籍市場の覇権をめぐる競争になるのか、それとも、日本の企業も含めたそれ以外の参入で、プレイヤーが入り乱れた混戦模様の競争になるのかが気になるところです。
しかし、まだ、佐々木俊尚さんの著作ではないですが、「電子書籍の衝撃」を理解していない人がいらっしゃるようです。技術やビジネスが大きく変化するときに、そういう方はつねにいらっしゃいます。
重要なことは日本の出版業界は痛んできているのが現状です。取次店経由の販売額は、1996年をピークに年々下降してきています。市場がシュリンクしはじめただけでなく、さらに日本は返本制度があり、その返本率も4割を超える高い水準で推移してきています。
10年で売上は書籍17.4%減、雑誌は24.4%減に~落ちる売り上げ・上がる返本率
つまり、出版しても4割は返ってきてしまうのです。作家には印刷した書籍分の印税を支払わないといけない、返本で書籍代金は返さなければならない、しかも大手ですら、売上高利益率が1%を切っており、返すだけの資金体力がなく、新刊を出版して穴埋めするという自転車操業でしのいでいるのが実態だと言われています。
もし、電子書籍が紙の書籍に取って変わらなくとも、書籍市場のシェアが10%にでもなれば、今でも苦しい出版業界にとってはさらに致命的な打撃になってきます。そうなるとさらに負のスパイラルが働き始め、投資する体力がさらに落ち、ますます売上げを落としていくことになります。
さて、誤解といえば、なんとしてでも、日本の出版を守りたいということでしょうが、NECが提唱している規格に日本の出版業界の支持があつまっているようです。しかし、規格は本質ではありません。規格がビジネスを制するのではなく、ビジネスで勝利したところが規格を制するのです。
それを理解するうえで、電子書籍の市場は、需要側に読者がいて、また供給側で、コンテンツ、ハード、プラットフォームの3つのプレイヤーが揃ってはじめて成り立つという視点が重要になってきます。
携帯音楽プレイヤー市場では、日本ではウォークマンが健闘していますが、海外ではアップルが、ハードとしてのiPodで寡占状態であり、したがってプラットフォームも制しました。その両輪を抑えたことで、ライバルを寄せ付けない競争優位の状態です。
しかし、電子書籍の場合はそうは簡単にいかないと思います。ハードでも、プラットフォームでも、アマゾンという強力なライバルがいます。
ハード側は、いまのところ、Kindleのタイプ、スマートフォン、iPad、さらにPCが代表的なものですが、スマートフォンでは、iPhoneには対抗するアンドロイド携帯もあり、またiPadの対抗品も続々と登場してくるでしょうし、iPodのように寡占化できる状況ではありません。プラットフォーム競争もまだどうなっていくかは不透明です。おそらく楽天もこのプラットフォームにやがて参戦してくるでしょう。
しかも、ハードとプラットフォームが一体化している携帯音楽プレイヤーと違って、プラットフォームが扱う規格もクロスオーバーしています。アマゾンは、Kindle向けだけでなく、iPadにむけた電子書籍も販売しています。まだそれを抑えるだけの影響力をアップルは持っていません。
しかも、コンテンツ側にとっては、ハードもプラットフォーム向けに、それぞれに合わせて出版するコストは知れています。もっとも、条件がよく、売れるところで売る、規格が異なれば、それぞれの規格にあわせたものを用意すればいいということになります。さらに、電子書籍流通を担うプラットフォームを通さずに売ることすら可能です。そうであれば30%のマージンを支払う必要もありません。
混沌としてきそうな電子書籍ビジネスですが、おそらく、音楽と違って、読むシチュエーションや目的、読者層によって、求められてくるハードの機能やプラットフォームのありかたが異なってくると思います。
電子教科書に求められるものと、電車で新聞や雑誌を読みたいという人が求めるものは当然違ってきます。ひとことで片付けられないのが電子書籍です。最初は小さくとも、市場をセグメントし、確実な読者をつかんだところがその市場を制するということになりそうです。
アマゾンの日本市場への対応が刺激となって、日本の業界の取り組みが加速することを期待します。そうでなければ、コンテンツ以外はすべて海外に流れるということもありえる話です。
株式会社コア・コンセプト研究所
代表 大西宏