既卒者のためにも雇用流動化を-松本孝行

松本 孝行

 新卒一括採用の投稿を募集して1週間以上経ちます。大変遅れましたが、既卒支援で独立した私としてはやはり投稿すべきと判断しました。日韓関係の投稿募集が始まったのにもかかわらず申し訳ありません。これだけは!と思ったので今回だけ、お許しください。
 新卒一括採用について、私は新卒採用自体を否定はしませんが、基本的な採用は随時採用にすべきだと思っております。ですがそれを企業側に説得する材料を私は持っていませんし、リクルートなどの企業も今は新卒採用と比べて随時採用を売り込めるだけの材料は持っていないでしょう。


 茂木氏や他の新卒一括採用を否定する論はほとんどが感情論です。「新卒で就職できない人たちが出てくるのはかわいそうだ」とか「新卒でしか就職できないのはおかしい」などの議論が中心です。しかしそれでは企業は動きません。企業が新卒採用を行っているのは新卒採用が現状最も良い採用方法だと思っているから行っているわけで、随時採用に新卒採用を大きく超えるメリットを感じなければ、企業側は新卒一括採用をやめないでしょう。

 新卒一括採用から随時採用に変わるためには、私は二つのポイントがあると思っています。それは企業側と国・行政側にそれぞれ存在します。

【企業】
 企業サイドとしてまず行わなければならないのは、現場への人材採用の権限委譲です。アルバイト・パートなどの採用を考えてもらうとわかりやすいのですが、ほとんどのアルバイト・パートは現場で採用しています。飲食店・小売店であれば店長が採用しますし、大きなショッピングデパートでは、もっと末端の現場主任が採用をすることもあります。
 しかし、一般的な新卒採用ではほとんどが人事部(もしくは採用チーム)が人材採用を行います。そこからそれぞれの部や課に配属していくと言う方法が主体であり、現場からどうしても離れたところに採用権限があります。日本の場合は不思議なことに、カンパニー制や事業部制を採っている企業であっても、中央に採用権限が存在したりするのです。随時採用にするためには、現場に近い場所に採用権限があることが必須です。そうでなければ、本当に人材が必要な時というのが把握できないからです。1000人を超える従業員を持つ企業で人事部だけがそれぞれの部・課の人材ニーズを把握することは不可能です。
 ですが、これを行うと人事部の仕事を現場が奪うことになるので、人事部の反対は強くなると予想されます。

【国・行政サイド】
 国が行うべきことは雇用の流動化のための規制緩和です。派遣社員などの規制緩和が行われ、多様な働き方が出来るようになりましたが、それと正社員との間には大きな差があります。これは派遣社員が悪いのではなく、正社員の給与を削ったり、解雇したりすることが出来ないことが悪いのです。左翼的な人たちは解雇=悪いことと言う考え方がありますが、もし規制緩和で解雇などが容易に出来るようになれば、市場ではアウトプレースメントや人材派遣業・人材紹介業などが活発になるでしょう。これはほぼ100%間違いありません。人材関連業者たちはもそういった解雇や減給などで退職した人たち向けのサービスを作り出します。
 この規制緩和による雇用の流動化がなければ、新卒一括採用が続くでしょう。現在、国家公務員は新卒者の採用を減らすことで人件費圧縮を行っていますが、これは結局既存公務員の解雇や減給が難しいために、新卒者の採用減で対応しているわけで、結局新卒者が損をしています。新卒者が就職できるように、若者が就職できるように、企業が随時採用できるようにするためには、既存の社員を解雇・不利益変更できるようにしなければ、結局は今と同じように新卒者が損を被るようになってしまいます。

 私は就職活動をしている大学生向けには絶対に既卒にはなるなとアドバイスしています。これは世界的にもおかしなアドバイスかもしれませんが、本当に既卒向けの就職と言うのはほとんどありません。今、大学生が就職のために留年することは、合理的な判断であり、私はおかしいことではあると思いつつも、社会システムを考えるとその選択を否定することは出来ないジレンマで、大変悔しい思いを持っています。

 本当に既卒になった人たちを哀れむのであれば、早急に国は雇用流動化へと舵を進めるべきでしょう。

コメント

  1. agora より:

    毎週のテーマに〆切はないので、いつ投稿していただいてもOKです。

  2. ksmethod より:

    解雇規制の緩和ってよく言いますけど、解雇規制のせいで解雇できないなんていうのは労組の強い一部の大企業のみですよ。
    中小企業なんて、ちょっと経営が苦しくなれば「明日から来なくていいよ」なんてことが日常茶飯事です。

    それに派遣社員が正社員になりたがる理由の多くは派遣社員にくらべて雇用が安定してるからで、「解雇規制を緩和すれば正社員になりやすくなる」なんていうのは本末転倒の気がするんですが。

  3. miyasitapon より:

    「雇用が安定している正社員」を大多数の人が求めるのは
    現在の日本の雇用流動性が低いからではないでしょうか
    同一労働での賃金もかなり差がありますし。

  4. livedoa555 より:

    雇用の流動化を実現すると、転職による将来収入の不確実性が増し、勤め先が変わることで引越しの回数が増えることになります。

    このことは、長期の住宅ローンを伴った持家優遇政策から,
    賃貸住宅での住居を前提とした住宅政策に転換することが政策的整合性の観点から求められます。

    ところで、賃貸住宅市場の実態をご存知でしょうか。

    「結婚して子供ができたらマイホーム」という国策的人生設計の下で、良質のファミリータイプの物件が少ない等、非常に偏った供給構造があります。

    賃貸住宅契約では、「前払いの賃貸」であるのに連帯保証人の実印と印鑑証明書が要求されます。これは、第三者に重い責任を背負ってもらわなければ、転居を伴う遠方への転職が困難であることを意味します。

    家賃の取立てについては、貸金業に課せられる規制の類がなく、無法地帯なので、闇金よりも恐ろしい取立てが横行しています。一日でも滞納すると、鍵が取替えられ、部屋に入れなくされたり、夜中の睡眠中に合鍵で無断侵入され、脅され、路上に放り出される等、の事例があります。

    雇用の流動化の前に、賃借者にとって借り易く、安心して生活できる賃貸市場の整備が必要です。

    更に、就職するときに「身元保証人」が要求されることも雇用の流動化の障壁になっています。

  5. 松本孝行 より:

    >>agora 様
    いつもありがとうございます。
    了解です、懐の深い措置ありがとうございます。

    >>ksmethod さん
    コメントありがとうございます。
    仰るように中小企業はすでに雇用がかなり流動化していますね。私も離職率が5割くらいの中小企業にいたのでわかります(笑)
    ですから問題は大企業なわけです。大企業の経営に解雇・不利益変更が出来るようになれば、景気悪化時に下請企業や非正規社員だけに損を押し付けるのではなく、出来るだけ損を薄く広く負担しあうことが出来るようになります。実際は労組などがあり、すぐには難しいでしょう。
    私は正社員になればいいと思っているのではなく、どんな働き方でも仕事の入り口が広い方がいいと思っております。ですから、流動化すれば働き口が広くなること(同時に賃金・待遇が同一になること)を期待しているのです。

  6. 松本孝行 より:

    >>miyasitapon さん
    おっしゃるとおりです。皆が正社員になりたいと考えるのは正社員の持っている性質(安定性や高い給与、昇給、福利厚生等)を求めているのであって、フルタイムで働くことを求めているわけではないと思います。正社員の持つメリットとパートタイムでも付与できれば、パートタイムがいいと言う人も多いでしょう。

  7. 松本孝行 より:

    >>livedoa555 さん
    仰るとおり、住宅についてはかなり不安視している若者は多いです。
    先日行った就活をしている人たちに色々な話をヒアリングしたのですが、食べていくことはどんなときでも出来ると思っていますが、問題は住むところだと言っていました。やはり若い人たちも住宅をいかにして確保するか、そこに一番の悩みを持っているのでしょう。だからこそ、今になってシェアハウスのブームなどが来ているのかもしれません。
    ただ、雇用流動化が始まれば、おそらく不動産業者たちもそれに合わせた商品を作りますから、私は楽観視しております。

  8. bobbob1978 より:

    livedoa555様

    私も同じことを感じていました。日本は引っ越しに伴うコストが高過ぎるため「仕事を求めて移動する」ということが非常に困難になっております。これでは仕事の需要に合わせて労働者が居住地を選ぶという最適化が出来ません。労働に関する需要と供給を最適化するには、この弊害を解消する必要があります。

    松本様

    「ただ、雇用流動化が始まれば、おそらく不動産業者たちもそれに合わせた商品を作りますから、私は楽観視しております。」

    残念なことに、この住居に関する問題は不動産業者に任せれば何とかなるというものではなく、雇用規制と同様法による規制が関わっています。日本は居住権の保護が強過ぎるのです。居住権の保護が強過ぎるため、大家側は新しい入居者を受け入れるに際しての審査を非常に厳しくする必要に迫られます。それがlivedoa555さんも述べておられるような連帯保証人などの問題に繋がります。
    livedoa555さんのコメントには違法な追い出しの例が書かれていますが、これも強過ぎる居住権保護の帰結です。裁判などの正当な方法では不当な居住者を追い出すことが出来ないので違法な方法に頼らざるを得ないのです。

    この強過ぎる居住権の保護は次のような負のスパイラルの原因にもなっています。
    仕事がない→仕事がないので住居が借りられない→住居がないので職を得られない→以下ループ→ホームレスになるしかない

    解雇規制だけでなく、それとセットで強過ぎる居住権保護の緩和を行う必要があります。これをセットで行わなければ現状を打破することは出来ません。

  9. 松本孝行 より:

    >>bobbob1978 さん
    なるほど、私のわからない分野ではありますが、不動産もかなり規制が強いということでしょうか。そのあたり、アゴラにて投稿していただければ、みなさんの知識も深まり、議論も起こるかもしれません。
    ぜひ私も勉強したいので、ご教授いただければ幸いです。

  10. 国は正社員に国土を切り売りして家を持たせ、それを30年くらいのローンで返済させることで“商売”しているわけです。その正社員の身分が不安定だと国の債権が不安定になるので流動化できないわけです。残念ながら、非正規雇用の人を正規雇用にしようとする試みは焼け石に水であると言わざるを得ません。それより、非正規のままでも家や家庭を持てる仕組みを考える方が可能性があると思います。例えば、正社員の身分の安定性に対して累進的に課税を行い、金額の多寡による累進性を止めて低額のフラット税制にするのはどうでしょうか。公務員や大手企業の正社員は、安定的な身分なのでその分より多くの税を納めていただき、一方、身分の不安定な非正規雇用の人でも瞬間的に多額の稼ぎがあった場合、金額の多さに対して税がかからなければ、一挙に家を買うことも可能となります。極端な例では、一発屋の芸人など、1年間で数億稼いでも翌年は売れなくて稼ぎがゼロなんて場合も、稼いだ年の税が安ければ、家が買えるでしょう。