【第3のビール市場から撤退を迫られたイオン】
おさらいをしておこう。昨年7月にイオン、セブン&アイの小売り2強がPBの第3のビールを同時発売した。1本あたりイオンの「トップバリュ 麦の薫り」は100円、セブン&アイの「THE BREW ノドごしスッキリ」は123円で売られた。
ところが、間もなく「麦の薫り」は店頭から姿を消した。
「麦の薫り」の製造元のサントリーが生産を見合わせたからである。「麦の薫り」の売れ行きに恐れをなしたビールメーカー、大手卸、酒販小売組合などがサントリーに強烈なプレッシャーをかけたのだ。イオン系スーパーやコンビニが大手メーカーのビールを置くスペースを削って「麦の薫り」のフェイシング(売場面積)を増やしたことに強烈な危機感を抱いたからである。それほど100円ビールの登場は業界を震撼させた。
サントリーに対し、「麦の薫り」の価格改定か、生産中止をビール各社、大手卸、組合が迫ったわけだが、これは談合に他ならない。
だが、価格決定権はPBをつくらせる小売業側にあるわけで、サントリーには何の権利もない。それにイオンとサントリーは契約を交わしている。それなのにビールメーカー、卸、組合が横車を押し、白を黒に変えようとした。このことは、日本がとんでもないPB後進国であることを証明したようなものだった。中国並みの商道徳しか持ち合わせていないと言ってもいい。ああ恥ずかしい。
結局、「麦の薫り」の生産は打ち切られた。
一度は第3のビール分野から撤退を余儀なくされたイオンは捲土重来を目指すのだろうか。しばらくして、このカテゴリーに対してイオンは今後、グローバルソーシングで本格対応していくという話が聞こえてきた。
換言すれば、外国勢の力を活用して、停滞して久しい日本のビール市場を開拓、活性化しようという目論みなのだろう。
【国内ビールメーカーの嘘を証明した新PBのヒット】
イオンの捲土重来は予想を上回る速さだった、
今年6月、88円のPB第三のビール「TOPVALU BARREAL」をイオン系総合スーパー、食品スーパーなど全国3000店舗に投入、発売より10週間余り(8月末時点)で、約3000万本を売り切った。この数字は同新製品の年間販売計画の7分の3をクリアした計算になる。
ビール類はNBの認知度が高いので、PB普及は難しいと各ビールメーカーはコメントしていたが、これが真っ赤なウソであることを改めて証明した結果となった。
「国内ビールメーカーにつくらせたから、あんな馬鹿げたことになったのだ」
サントリーの対応に怒り心頭に発したイオンは、談合がありえない韓国メーカーに生産委託、価格もさらに安くして、ビール市場に再挑戦してきた。「BARREAL」は1本買いでは88円だが、1ケース(24缶)買いでは1本あたり78円と最低価格を実現した。
今回の「BARREAL」のヒットは少なからず、本来のPBのありかたを、消費者に知らしめたのではないだろうか。
たとえPB製品であっても名前の通ったメーカーが記載されている方が安心感があるという人がいる。わたしに言わせれば、それは「自称PB」の術中にはまることになる。なぜならば、メーカー名が販売者の欄に記載されているのがほとんどで、本当の製造者は製造番号で表示してあるからだ。百歩譲って、メーカー名が製造者の欄に記載されているのならまだいい。
つまり、そのメーカーの自社工場で製造したものなのか、子会社あるいはOEM、もしくはまったく関係のない他社に丸投げしたものか不明なのである。したがって、もしものときの責任の所在がわからない。
みなさんも身近なPBを実際にチェックすれば、大半の方は「あっ、本当だ」と納得すると同時に、メーカーが販売者として表示されているのと、製造者欄に表示されている意味合いがまったく違ってくることを理解できるはずである。
仮に正当派PBの製造者欄にメーカー名が表示される場合、そのデメリットについて外資系スーパーの商品開発担当副社長が説明する。
「メーカーの価格戦略とPBを製造委託させる小売業の価格戦略が合わない場合があるからです。メーカーがつくるNBの価値を下げる危険性は否定できない。それから、メーカー名を入れた、いわゆるダブルチョップ、あなたの言う「自称PB」にヒット商品があまりにも少ないことがあります。 どうしてもメーカー任せの商品開発になって、消費者の視点からの開発にならないからです。これはわれわれの世界では常識です」
「BARREAL」に話を戻そう。
輸入酒類に該当する「BARREAL」は法律に則り、「原産国/韓国」「輸入者及び引取先/アイク株式会社」との表示がなされている。委託製造者がサントリーのような著名メーカーでないのに、「BARREAL」は「麦の薫り」以上に売れている。
この事実は、西友系PBからスタートして消費者に高いブランドイメージを定着させることに成功したPB「無印良品」を想起させる。つまり、消費者はPBを製造するメーカーで選ぶわけではなく、そのPBのブランドで選ぶという領域に、「TOPVALU」ブランドが近づいてきたことを意味していると思う。
ノンフィクション作家 加藤鉱