日銀の政治的立ち回りも、試行錯誤しながら、進歩してきた。
次の政策決定会合の日程をなんと、米国FOMCの直後に前倒し。彼らが動いたときに、対応できるようにした。
なんとカッコ悪い。プライドもないのか。もっと堂々と、受けて立ったらどうか。メディアには8月末に米国の動きに追随して、菅総理と面会して何かしろ、と批判を受け、まともなエコノミストには、いや米国が動くことは分かっていたのだから、8月上旬の決定会合で先手を打って打ち出せばよかったのに、と批判されたことが、トラウマになっているのだろうか。そして、今回は、米国が動こうと日銀もかなりの政策を前回と今回で打ち出しているので、何も恐れることはない。万が一、何か必要になれば、臨時会合を開けばよいだけだ。これでは、中央銀行のカリスマが生まれず、市場をリードできない。情けない中央銀行だ。
というのが、普通の感想だろう。私は違う意見だ。日銀は、いよいよ大人になってきた。何と言われようと、政治的な立ち回り、市場における米国金融政策との関係、いずれにおいても、経験不足もあり、大きく劣っている。それならば、思い切り、弱者の立場を徹底させ、名を捨てて、実を最低限押さえる、そういう戦略に切り替えてきたと見る。
素晴らしい。
日銀は、FOMCで何か大きく動きがあれば、国内の政治家から、追加緩和のプレッシャーが強まるだろう。民主党の日銀法改正への動き(実現するとは思わないが)がいわば脅しとしては効果を発揮している、ということだが、これが、大きくドル安となり、その結果、ドル円が大幅下落することになり、77円ということになると、さらに日銀は追い込まれることになる。そのときに、臨時会合を開かずに淡々と対処できる、ということで、日程の変更はプラスだ。
さらにいうと、77円にでもなれば、それは臨時会合を開くのもまあ仕方ない、ということだが、一旦、ドルが82円近くまで戻した後で、80円を割り込むかどうか、というぐらいでは、臨時会合を開く必要はないが、何もしないとプレッシャーは高まるので、そのときに定例会合があれば、少し、買い入れ額を増額するぐらいで、何かした感があり、政治的にも日銀的にも、そして、市場としても、落ち着きどころがある、ということで、みんなハッピーだ。そういうシナリオに備えたものだろう。
素晴らしいと思う。日銀が、現時点では、米国との関係、政治との関係で、弱者であり(制度的にではなく、市場的、政治的ポジションとして)、そうである以上、その前提条件を素直に受け入れて、ベストを尽くすのが最善の戦略だろう。
今後の日銀に期待する。