欧州の財政危機再び、日本は教訓をいかせるか

小黒 一正

今年5月に表面化したギリシャを中心とする欧州の財政危機は、欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)の金融支援によって一時落ち着きを取り戻していた。しかし、11月上旬、「PIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)」と呼ばれる財政状況が厳しいEU諸国の国債利回りが再び上昇しはじめた。とくに、アイルランドやポルトガルの国債利回りの急騰が激しく、アイルランド国債(10年)の利回りは11月10日には8%超にも達した。


図表:ギリシャ・アイルランド・ポルトガル国債(10年)の利回り推移

理由は、アイルランドが国有化したアングロ・アイリッシュ銀行やバンク・オブ・アイルランドの救済コストが膨大に膨れ上がり、アイルランドの財政赤字がGDP比の30%超にも及ぶ可能性が出てきたからだ。
いまやアイルランドの金融システムは崩壊寸前で、その救済コストはさらに膨張していく予想が高まっている。このため、市場関係者が、アイルランドがギリシャと同様にIMF等の金融支援を受ける可能性が高まっていると判断し、アイルランド国債の警戒を強めはじめた。加えて、欧州版IMFの創設の議論において、「金融支援を受けた加盟国が返済できなくなった場合には、国債を保有する民間側にも損失を求める」とするドイツ提案も、市場不安を掻き立てた。

このような市場の混乱を受け、ドイツ・フランス・イギリスらの主要5か国による緊急共同声明によって、「既存の国債保有者は負担を被らない」旨の強いメッセージを発したことで市場はやや落ち着きつつあった。しかし、ギリシャ国債(10年)の利回りはいまも10%程度、アイルランド国債は8%程度で推移しており、欧州の財政危機が完全に去ったと判断するのは早計だろう。

実際、いまアイルランド政府はEUやIMFと金融支援について協議中であり、近々にも財政再建計画を公表予定としている。

ギリシャ危機は財政赤字の粉飾、アイルランド危機は金融の信用不安であるから、財政危機の経緯は異なるが、欧州財政危機から学ぶべき最も重要な教訓は、「市場の動きは素早く容赦ない。危機が表面化し、いったん市場の不安に火がつくと、それを鎮めるのは容易でない」ということだ。だから、政府は、できる限り早急に対応を進めておくのが肝要である。

翻って、日本の財政危機はまだ表面化する気配はない。そのためか、国民全体の危機感は薄い。だが、日本の公的債務残高(対GDP)は先進国で最悪であり、毎年約1兆円のペースで増加していく社会保障予算の安定財源を確保しない限り、近い将来、財政が危機的な状態に陥ることは明らかだ。

財政危機に陥ったギリシャ等と異なり、日本は内国債だから大丈夫という見方もあるが、拙書「2020年、日本が破綻する日」(日経プレミアシリーズ)で説明しているように、もはや時間は限られている。だから、一時的に国民に不人気の政策であっても、危機が表面化する前に、粘り強く国民に説明を行い、財政・社会保障の再生を進めておく必要がある。いまの政治には、欧州危機の教訓を踏まえつつ、日本の将来を舵取りしていく、強い意志と責任が求められている。

コメント

  1. なぜ年寄り世代が作り上げた膨大な借金を返済するのに、若い世代が耐乏生活を強いられなければならないのですか?今の政治に求められているのは、それを強いる強硬な姿勢ということでしょうか。ギリシャやアイルランドの国民の本音は、デフォルトで借金をチャラにすることでしょう。なぜなら、過去にデフォルトで債務をチャラにしたロシアの現在の復興を見れば、誰だって死ぬまで耐乏生活をして前世代の借金を返すよりはデフォルトを選択するでしょう。日本でも、今の公務員の死ぬまで安泰な待遇(今回の人事院の勧告など民間に喧嘩を売っているのかと言いたくなるレベルですね)を見て、若い世代が、その人達の生活を保障する気になると考える根拠が知りたいです。私は現状では若者の過半数が、税金や社会保険料を納めない“一揆”や“兆散”が起こる確率の方が高いように思います。