株価が上昇しても、それだけでは・・・

前田 拓生

2010年7‐9月期(第3四半期)の実質GDP伸び率が3.9%増であったことに加え、このところの円高傾向一服も材料に、投資家心理が上向く中、日経平均が1万円の大台を回復しました。巷では景気回復期待も高まっていますが、どうなのでしょうか?

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今回のGDPの回復は、エコカー補助金終了に伴う駆け込み需要の影響が強いことから、このまま成長が続くとは思えません。まぁ、家電エコポイントの終了を前にして家電関係の駆け込み需要は当面続くでしょうし、現在審議されている補正予算が成立すれば、“それなり”の効果はあるでしょう。そういう意味では大きな下押しはないのでしょうが、「だから」と言って、積極的に「景気が良くなっていく」という感じはありません。

また、円高傾向一服とはいえ、まだまだ80円台前半ですから、産業界、特に中小企業にとっては厳しい状態が続いています。上場企業等は想定為替レートを切り上げていますが、これはグローバル展開が可能で、しかも、国内的には下請け企業等にしわ寄せができる企業に限られるのであり、価格転嫁できないような主体(日本の法人企業の99%に当たる中小企業)にとって「状況が変化している」とはいえません。

このような中で日本の株価が上昇しているのは、世界的にみて(日本の株価が)比較的低位に放置されていたので、ホームレスマネー(利を求めて世界中を彷徨っている投機性資金)が少し入ってきているからだと考えられます。つまり、「(日本経済に)将来性があるから」というよりも「売られ過ぎの修正」に過ぎず、株価が「企業の将来利益の現在価値である」とはいえ、この株価上昇をもって「将来が明るい」ということではないでしょう。

一般に「不景気の株高」というのは決して珍しいことではありません。景気が悪い時におカネがジャブジャブであれば、企業には(資金需要がないことから)吸収されず資産(土地や株式)に流れるため、資産価格のみの上昇になっていくものです。まぁ、資産に流れた資金が徐々に広がっていって実物経済に浸透してくれば、景気を回復させることになるのですが、実物経済に浸透していくためには企業の資金需要を高めるような“何か”がなけば、資金の流れは変わりません。

この“何か”は、現状、“規制緩和”なのでしょうが、その方向性も見いだせていない状態だけに、今回の株価上昇は単に「売られ過ぎの戻し」に留まる可能性が高く、悪くすると経済のボラティリティを高め、結果として不況感を深める可能性もあります。

加えて、相次ぐ閣僚の失言等により、補正予算もままならず、果たして民主党がこのまま政権党のままでいて「本当に大丈夫なのか」と素朴に心配せざるを得ない状態になっています。

このような政権に“機”を論じてみても意味はありませんが・・・

株価が回復傾向にある時には、それなりにマインドも温まっているので「何を」「どのように規制緩和」し、そのために問題になる部分を「どう補完するか」などを真剣に考え、うまく政策を打てば、すぐに成果が出て景気回復につなげるものです。その意味で“今”は非常に大切な時期ですから、この機を捉えてうまく立ち回ってもらいたいものです。