★加藤鉱の会社すくらんぶる 三井不動産・三菱地所に喝!★
いまから9年前の2001年9月、先進国にかなり遅れて日本版の不動産投資信託、Jリートがスタートした。東京証券取引所はリート市場を開設、新規上場したのが日本ビルファンド投資法人投資証券とジャパンリアルエステイト投資法人投資証券の2銘柄。前者が三井不動産系で後者が三菱地所系であるのは言わずもがな。
【先進国のリートとの決定的な違い】
「ミドルリスク、ミドルリターン」といったふれこみで華々しく宣伝したせいか、一時期は一般投資家にけっこう人気があったけれど、そのうちに失速、破綻するリートも出てきた。日本経済がバブル崩壊の痛手を引きずるなか、なぜこの時期に海外の後追いをするのかが解せなかったわたしは、知り合いのシンクタンク研究員の意見を聞いて納得した。
「バブル崩壊後、金融機関や不動産会社が保有していた物件の価格が10分の1以下になってしまいました。それを簿価で組んだものがJリートだと理解しています」
体のいい不良債権処理の道具がJリートだったということになる。それをミドルリスク、ミドルリターンの新商品の登場だとはやし立て、なにも知らない一般投資家に買わせた。要は、バブル崩壊で被った大損のおすそ分けをしてくれたのだ。
それではアメリカやオーストラリアやシンガポールといったリート先進国とJリートとはどこがどう違うのだろうか。シンクタンク研究員に聞くと、「決定的に違うところがあります。それが問題だと指摘されていたのに、強行突破してしまったのです」と憤懣やるかたない表情になったのをいまでも覚えている。
「先進国のリートは、リートに組み込む物件を担当する側とそのリートを販売する側が明確に分かれています。第三者機関の厳重なチェックもはいり、コンプライアンスの面がきわめてしっかりしています。
一方Jリートのほうは、リートを組み込む側と販売する側が同じグループでも構わないことになっています。ですから、優良物件は保有しておき、優良ではない物件を組み込む傾向がどうしたって出てくるはずです」
こういうのを利益相反というのではないか。日本を代表する不動産会社2社のリートが栄えある上場一号となったが、仮に日本ビルファンドが霞ヶ関ビルを、ジャパンリアルエステイトが丸の内ビルをリートに組み込む勇気があれば、Jリートの信頼性を高められただろう。
【不良債権処理マシンと化したJリート】
当時、三井不動産の岩沙社長は「コンプライアンス・情報開示等の重要性に十分留意しながら、ファンドに対してより高いサービスを提供するということを通じて、新しい不動産投資市場の健全な発展・拡大に最大限の貢献ができるよう努力していきたい」とぬけぬけと語っているが、ならば、なぜアメリカ、オーストラリアに倣って、リートの作り手と売り手を峻別しなかったのか。
最大手の三井不動産と三菱地所がその気になりさえすれば、Jリートは健全に成長できたかもしれなかった。これは後世まで語り継がれる汚点となろう。
シンクタンク研究員の懸念はあたった。Jリートはまさに不良債権処理マシンと化した。リート側は物件の構成は玉石混交と言っていたが、まやかしだった。あまりのひどさに行政処分を食らったところもあった。まだ血の気が多かったわたしは大手の不動産会社系リートの担当者に取材を申し込み、「物件取得価格が高すぎると言われているのは、同じグループの物件だからじゃないですか?」「入室率の悪い物件については、系列企業が家賃を払って、数字を糊塗していると言われていますが本当ですか?」とかなりきつい調子で迫った。
すると相手は開き直った。
「投資家に都合の悪い物件を組み込んでいると言いたいようですが、こちらも一応、開示義務があるのでチェック機能は備わっていることになります。リートなんかより株屋(証券会社)のほうがうんとひどいですよ。あいつらモラルもへったくれもないですから」
Jリートにせよ、証券会社が売る投資信託にせよ、結局、他人に任せると好き勝手にやられるということだ。ここに収斂する。
先日、何年かぶりに会ったシンクタンク研究員が言っていた。
「Jリートにしたって、ただ購入するだけで、あとは他人まかせ。物件の入れ替えに口を出せるはずもありません。損をしても仕方ないですね。世の中、それ程甘くないということでしょう」
そんな落日のJリートを追加金融緩和策として買い取る日銀はいったいどういうつもりなのだろうか。
ノンフィクション作家 加藤鉱