アップルのブランド優位とどう闘うか

大西 宏

日本でもアンドロイドOS搭載のスマートフォンが各社ともに好調のようです。KDDIが発売したシャープ製のIS03も、11月末でKDDI始まって以来の予約数の27万を達成したといいます。またBCNの売れ筋ランキングでも11月度のトップはIS03でしたが、12月の第二週にはいって、今度はNTTドコモのLYNX3Dがランキングのトップに登場してきています。


iPhoneに加え、アンドロイドOSのスマートフォンが売れることで、携帯からスマートフォンへの流れも加速されてきます。

調査会社のMM総研(東京)が発表したスマートフォンの市場規模予測によると、「2010年度の出荷台数は前年度比約2・9倍の675万台と拡大し、携帯電話の総出荷台数の18・1%を占める見通し」で、2012年度には出荷台数比率で従来の携帯電話を上回るだろうとしています。

そして、いよいよ日本でも、スマートフォン市場の覇権をめぐって、開発からプラットフォームまでのすべてを握るアップル帝国対メーカーもハードもプラットフォームも多様なグーグル共和国の競争が始まりました。

とはいえ、アップルの優位性を崩すためには、まだまだ壁が大きいことはいうまでもありません。最大の壁はブランドのパワーです。

アップルが、開発からアプリやコンテンツ流通のプラットフォームまでが一貫したビジネスモデルを実現しており、その優位性がよく指摘されますが、それが事実だとしても、おそらくは、その優位性は時間とともに相対的なものになってきます。スマートフォンなどのアンドロイド端末が売れれば、売れるほど、ソフトの開発企業も、コンテンツを売る側もアンドロイド共和国にも集まってきます。

しかし、いったんアップルが築いてきたブランドの優位性の壁を崩すことは簡単ではありません。そして、アップルがブランドで優位である限り、利益の差の壁を崩すことも困難でしょう。

アップルは、iPod、iPhone、iPadの成功でブランドを築いてきました。見事なブランド戦略です。アップルは、ブランドがいかに築かれ、またブランド優位をつくりだすことが、ビジネスでの優位をもたらすかをまざまざと見せてきたように感じます。

つまりブランドは、広告やデザインなどのコミュニケーション戦略も重要だとしても、それよりはイノベーションを起こし、新しいカテゴリーを創造することによって、はじめて強力なブランドとなることをアップルは示しています。そして、いったんブランド優位にたつと、製造に対しても、販売に対しても優位になるという現実です。
ブランドを築くということは、経営にかかわるすべての戦略を総結集してはじめて可能だということです。

アップルは値引きもすべてキャリアの負担であり、価格競争にアップル事態は巻き込まれません。米国のディスカウンターであるコストコが、価格交渉で譲らないアップルを店から閉めだしたようですが、売り手としてアップルの強さを感じさせる出来事でした。

しかし、そこにアンドロイド共和国に参加している各社の成功の鍵もあるように感じます。スマートフォンのなかに新しいカテゴリーをつくり、そのリーダーとなるポジショニング戦略だと思います。

そのひとつには、ローカリゼーションではないかと思っています。それぞれの国、あるいは地域にどれだけマッチしたコンテンツやサービス、またスマートフォンのしくみを提供できるかです。

IS03のように、ガラケーならぬ、ガラパゴス・スマートフォンの戦略は残されているのですが、日本だけでなく海外でもどれだけローカライズの戦略をとっていけるかに今後は焦点があたってくると思います。

あるいはアップル帝国は、ロジャースの普及理論で言えば、初期採用者にターゲットを絞っているので、グーグル共和国は、もっと違った人びとにむけた開発やマーケティングでイノベーションを起こし、アップル帝国とは違ったポジションを創造することも考えられます。

いずれにしても、なんらかのイノベーションを起こさないと、本当の意味でのブランドパワーを築くことはできず、量は売れても利益は薄いということになり、まずます、投資余力で差がついてしまいます。

さて、携帯の世界市場では韓国勢に押され、存在感をことごとく失ってしまった日本のメーカーですが、韓国勢も世界でスマートフォン比率が上昇するにしたがって、携帯で築いた競争力はむしろ足枷になってくる可能性があります。

サムスンのギャラクシーは成功していますが、LGは携帯事業が怪しくなってきているようです。さて日本ブランドは、世界で見れば携帯はもはや失うものがなく、まずは日本市場で成功することが第一の関門でしょうが、海外展開で競争力を持つためのなんらかのイノベーションの切り口を見いだせるかどうかを注目したいところです。