周波数オークションの目的は「法の支配」である

池田 信夫

周波数オークションについて論理的に反対する意見は皆無ですが、「大人の事情」で反対する声は多い。たとえばソフトバンクは「900MHz帯でオークションをやると無料で免許を取った既存業者と不公平になる」と主張していますが、彼らが不公平だと思うなら応札しなければよい。免許費用を負担してでも参入したい新しい企業はいくらでもあります。


世の中に完全な制度設計はない。誰かにとって不満があるのは当たり前で、要は相対評価です。ソフトバンクは、電波官僚が密室でやる美人投票がオークションより公正だと思っているのでしょうか。2.5GHz帯の美人投票が不公正だと批判した彼らが、900MHz帯で「指定席」を取った(と思った)ら美人投票に賛成するというのは、あまりにも露骨なご都合主義です。

相撲の八百長にみられるように、日本社会にはフェアという規範がありません。長期的関係の中で「落とし所」をさぐるときには、お互いに損得なしの公平な分配を実現することが調整のキモです。しかし公正な競争と公平な分配は決定的に違います。前者がプレイヤーが誰であるかに依存しない事前の機会均等であるのに対して、後者はインサイダーの中での事後的な利益分配です。

美人投票がよくないのは、それが法の支配という近代社会の原則に反するからです。非人格的なルールを規範とし、特定の人を優遇も除外もしない法の支配は、市場原理が機能するための絶対条件です。競争にとってもっとも重要なのはシェアやコストではなく、新規参入が可能かどうかなのです。

電波政策でいえば、700MHz~1GHzで細切れになっている周波数を買い上げ、一括してオークションで割り当てればよい。5MHzとか10MHzとか小出しにするから、そのたびに政治的なロビイングが発生するのです。オークションでも既存業者のスロット数を制限すれば、独占は防げます。こんなことは制度設計のチューニングの問題で、オークション自体に反対する理由にはならない。

総務省は3GHz以上の帯域でオークションをやることを「検討する」そうですが、いつのことやらわからない。プラチナバンドと呼ばれるUHF帯で行なわなければ、オークションをやる意味はありません。オークションの目的は、国庫収入でもなければ業者にコストを負担させることでもなく、役所と既存業者による八百長を打破して日本社会に法の支配を徹底することです。

コメント

  1. armedlovepower より:

    >公正な競争と公平な分配

    この2者は、見た目は同じですが、考え方が真逆です。

    このことに気づかないのが、われわれ日本人の、世界の人々を不安に陥れる特徴です。

    人種に壁は無いと思いたいですが、見た目だけでしか判断できない人の群れるこの国の現実は、とても厳しいです。

  2. はんてふ より:

    [激増するトラフィックに対応する為に、世界中で携帯通信事業者がもっと周波数を確保しなければならないが、トラフィックが100倍に増えても、ユーザーは10倍もお金を払ってはくれないから、周波数の取得に金はかけられないという話になり、現行のオークション制度への疑問が沸騰しました。]
    (松本徹三さんのツイートより)

    >>たとえばソフトバンクは「900MHz帯でオークションをやると無料で免許を取った既存業者と不公平になる」と主張していますが、彼らが不公平だと思うなら応札しなければよい。免許費用を負担してでも参入したい新しい企業はいくらでもあります。

    沸騰した、つまりオークション反対論という鍋は既にコンロに置いてあったのでしょう。光の道とは陽動作戦のコードネームに他なりません。なかなか面白い茶番でした。反対論が巻き起これば巻き起こるほど、陽動作戦は機能するのですからね。

    かつてコメントで私は「孫正義は坂本龍馬でなく武田勝頼だ」と書きましたが、いやいやなかなかどうして、斎藤道三のような謀将だったようです。ネットの議論の性質、影響力まで見据えた作戦だったのですから。