未就職者への話題は少し遠ざかり、いまや2012年就活が伝えられます。今年3月に卒業する高校、大学生の中で就職できない人数は、実質20万人を超えるでしょう。
菅直人首相は「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と声大きく雇用問題の解決を掲げました。2月半ばには、厚生労働、文部科学、経済産業大臣が連名で、経済業界の247団体に、採用枠の拡大を求める要請書を送付しました。次々、繰り出す政府の雇用政策ですが、私は菅首相と3大臣のこうした動きについて、けっしてほめられる行為ではないと思っています。
では、その政府の就職支援の中身を見てみましょう。ハローワークをワンストップとして若者を支援するとしています。新卒応援ハローワークには延べ、昨年秋から12万5000人が来所し、その1割の1万2000人ほどの就職が決定しています。また、民間人のジョブサポーターにより2万5000人の就職が決定しています。しかし、決定者は二重に計算されている可能性もあります。
私の知り合いは、ハローワークから受託して教育訓練を行っている業者の1人ですが、彼は、受講者のレベルに合わせて、パソコンソフトの講座で教えています。しかし、初歩レベルからなかなか上達しない求職者を見て、雇う企業は現れるか、不安を抱いています。人材のミスマッチを実感すると言います。こうした現状のやり方では、限界がありすぎるのです。政府の施策内訳は次のとおりです。
・厚生労働省 125 億円 ジョブサポーターなど
・ 文部科学省 50億円 キャリアカウンセラー、就業力支援など
・ 通商産業省 20 億円 ドリームプロジェクトなど
各省が予算を取りあい、総額195億円ほどになります。そして1人当たり、80万~100万円を給付するこうした既卒者を含む雇用支援制度では、2010年度で1000億円ほどの大きな予算額になります。つまり、1人支援するのに計算では500万円前後の税金が投入されているということです。資金効率の悪い就職支援事業と言わざるをえません。文科省、厚生労働省、通商産業省と効率悪く就職支援をしているとしか思えません。
政府の支援制度には、批判が多いのです。企業は先が見えないと求人へ踏み込めないなど、中小企業経営者からの苦情も寄せられています。現在行われている就職支援もマナー講座などですが、長期雇用に結びつく専門性が高い教育は見当たりません。つまり、一時的に雇用するジョブサポーターは、社会保険労務士などいわゆる士業の合間の時間を切り売りするパートタイマーに任せきりが多いため、皮肉にも学生の雇用よりフリーの就職支援者の雇用を新たに生み出すことに一生懸命なのです。
また採用と引き換えに金銭を供与されることで企業の採用意欲を歯磨きのチューブのように無理やり絞り出しているからです。無理やりの方法では、一時的な求人が生まれるかもしれませんが、給付金が止まったら、即座にクビにする悪質企業も出てくるでしょう。
今月中旬、オバマ大統領はハイテク業界幹部の会合に出席しました。出席者はアップルのジョブズ氏、フェイスブックのザッカーバーグ氏、グーグル、オラクル、ヤフー、シスコシステムズ、ツイッターの世界的IT企業のトップたちでした。オバマ大統領は、企業の創造力を伸ばすために経営者たちを支援して、雇用創出へ結びつけつけることが、必要だからです。オバマ大統領はIT業界が米経済成長の原動力になると考えているのです。1月に行った一般教書演説で、オバマ大統領は「イノベーションとは、私たちが生活をどう成功させるかということだ」と力説しました。
経済回復諮問会議に代わり、オバマ米大統領が1月末に新設した「雇用競争力会議」のトップにGEの会長のイメルト氏を任命しました。彼は「未来を創るリーダー」として世界的に知られます。日本で言えば、トヨタやパナソニックの社長に政府の雇用問題の責任者を任命するようなことでしょう。日本でも厚生労働大臣に民間企業トップをすえて、対策に充てることも考えられるでしょう。
首相たるもの、有力な成長企業との会合やヒヤリングを頻繁に行い、次世代産業育成への道筋を極めて、永続的な雇用創出へ結びつける永続的な努力が必要なのです。そして、大学は将来への道筋に沿った形で人材育成を行うことで一気通貫システムが出来上がるのです。次世代への雇用創出戦略を作れないのであれば、菅首相は即座に政権から去ることを望みます。
(鈴木和夫 ジャーナリスト/MBA diploma)
参考:
厚生労働省:就職支援資料1
厚生労働省:就職支援資料2
日経ビジネス:就職率資料
コメント
ワークフェアも日本政府がやると無礼講式になってしまうんですよね。こういう公的サービスはとても重要だと思いますが、民間にいくらでも資源があるものを一々と政府が構築してやる意味はないですよね。また今後は生活保護に組み合わせて行う必要もあると思いますし、もっと一般的な視点で考えないといけないと思います。
政策の効率を上げることは、基本的にはオープンな仕組みのもとでサービスを民間に委託することで成されると思います。これは、電波オークションとかのその他のしくみと通ずるものがあるんじゃないでしょうか。ちょっとしたモデルケースがいくらもあるように思いますが、大抵いいものが長続きしない。なぜかというと、いいものは当初の設計が立ちいかなくなったときに出てくる臨時的なケースであることが多いからだと思います。
こういったかんじで、公的な介入が現場レベルでの制度的なイノベーション?を阻害するのは、福祉政策分野では広くみられている状況のように思います。現場の官僚の念頭には、効率などということは一切ない。時間と共にいろんなことに制度的にも無駄な部分がはびこっていくようでこういうのは制度設計とは無縁の動きでしかないですよね。
しかし個別の福祉政策に財務省の官僚が切り込めるかというとそれにも限界があるし、だれかが大ナタをふるって無駄をバッサリ切るしかないわけですね。政治がそれをやるしかないと思います。福祉政策に関しては、財務省などの方がよっぽどましな常識を持っているように思えますし。制度設計の大本の部分にまで厚労省が関わる意味はまったくないと思いますので。そういう官僚制度の中での現場の理屈を潰すことが必要だと思います。官僚制度の体系の中での、現場の理屈におさえが効かないのが日本の政治の停滞の原因なんじゃないかと思いますけども。どうでしょうか?