わざわざ批判記事を書いて頂いた石田氏へ、まずは感謝の言葉を述べます。それでは、下記の①と②について反論を開始させて頂きます。
①現在の福島第一原発での事故への対処プロジェクトにおいて、このプロジェクトをデスマーチ化させたのは、政府、であるという点について。
石田氏記事のコメントで述べておられた「リーダーシップがあればデスマーチにならなかった」という事に絡めて意見を述べます。経産省の原子力安全・保安院(以下保安院と省略)の3月12日の午前0時30分のプレス発表を見ると、福山第一原発では「電源車3-4台が敷地内で待機中」とあるので、緊急炉心冷却システム(以下ECCSと省略)が夜半に停止する事を掌握していました。12日の午前7時の時点で、「電源車のケーブル繋ぎ込み作業中」であり、電源接続作業がうまくいってない事も理解していました。その後のプレス発表を追いかけ続けてみて感じたのは、驚く事に保安院は、その場凌ぎの対応を東電に続けさせていたという事です。
沸騰水型原子炉の技術解説記事を読むと、ECCS無しで炉心の冷却を行う場合に容易に想定されるのは、炉心の崩壊熱により、圧力容器内の水蒸気圧の上昇、炉心の溶解、そして可能性は低いものの、圧力容器の底へ落下した燃料の再臨界というシナリオです。「廃炉」の決意なく、全停電状態を続けるのが無謀である事は明白であり、東電と保安院は、極めて危険な綱渡りをしている事になります。
政府首脳が福島第一原発問題の評価や対策を保安院へ丸投げせず、危機的状況を管首相にまで報告していれば、早ければ11日深夜、遅くても12日早朝にも、チュルノブイリ化を何よりも恐れている管首相が、早期の「廃炉」決定を行う事はできたと考えます。 (格納容器を持つ福島第一原発がチュルノブイリ化する事は実際には無い筈ですが...)
②東電の災害時対応マニュアルの想定外の事態が起こった場合、それ以外の対応については政府の責任であるから、政府が直ちに現場の指揮権を奪い、介入すべきであったという点について。
福島第一原発とその周辺の災害対策を、統合本部が管理する重要性について述べます。私はサブプライムローンのようなブラック・スワンを管理せよと言っている訳ではなく、石田氏の指摘はポイントがずれています。そうではなくて、いまそこにある危機を管理せよと述べています。レベル5とか6を想定した原子炉障害対策においては、単に原子炉そのものへの対応が要求されるだけでなく、最悪のシナリオをも想定した、原子炉と周辺住民へのダメージ制御を統合的に準備し運用する必要があるという考えを統合本部に要求する機能で述べました。福島原発周辺住民の避難範囲が、3キロ、10キロ、20キロと短時間にエスカレートして、避難住民に大きな混乱をもたらしたのは、東電と政府が対策組織として分離している弊害の典型例かと思われます。
原子炉そのものへの障害対策について述べます。これが極めて専門性の高い内容である事は石田氏が指摘する通りです。統合本部の責任者(経産省大臣?)が無理に理解する必要はありません。政府側が東電の指揮系統や個々の対応に口を挟む必要もありません。大臣は全体的な方針を決定し、原子炉への対応は、先に述べたように、東電へ任せれば良いでしょう。大枠の策定や東電の作業内容の妥当性評価については、大臣の下に支援チーム(危機管理の専門化、原発の理論や設計の専門家、原発開発メーカーの技術責任者など)を招集すれば良いでしょう。統合本部は現場を混乱させるのが目的ではなく、現場が実現可能な方向性を定め、必要な資源を集めて供給し、現場で起こる状況の最終責任を負う事を現場に明確化する事です。
想定外の天災における東電と政府の責任について述べます。電力会社は公共性の強い企業ですから、自動車会社のリコールと同列で語るのは正しいとはいえません。また東電は天災によるダメージの他に、原子炉が廃炉になる事で大きな経済的損失を負います。法律に別段の定めなく、東電の障害対応に大きな過誤がない限り、東電の責任はここまでにするべきと考えます。障害対応の為に東電以外の資源を利用した経費や、周辺住民の避難に関する費用や補償、原発外へ拡散した放射能汚染に対する補償などは、他の災害対策費用と同様に政府が負担するべきと考えます。また、それを法的に明確化する為にも、東電の現場組織は、政府主導の統合本部の下に置くべきです。
最後に申し上げたいのは、デスマーチの責任は、「悪魔の後出しじゃんけん」で東電や政府を批判する為に書いた訳ではありません。現在進行中の福島第一原発の原子炉障害への対応について、東電が一貫性のある明白な戦略のもとで、現実的で、よりリスクが低いと思われる障害対応活動を行うように、統合本部の下で改善を求めること事が目的です。
参考資料
1)危機は避けられたか
2)MIT原子力理工学部による改訂版・福島第一原発事故解説
3)MIT原子力理工学部による「崩壊熱」についての解説
4)MIT原子力理工学部による「最悪のシナリオ」予測に関するコメントと解説
5)遅きに失した統合本部に要求される機能
6)非常用炉心冷却装置
7)内閣安全保障室
8)原子力安全・保安院 プレス発表
(石水智尚 インターネット・ソリューションズ・リミテッド役員)
コメント
東電の責任についての追加です。大前研一ライブ579によれば、東電は情報の隠蔽や嘘の報告を政府へ行っているという可能性について述べています。もしも、そのような事があるとすれば、あるいは東電の重大な過誤があったとすれば、それについて東電は責任を取る必要があると考えます。 石水
【地震発生から1週間 福島原発事故の現状と今後(大前研一ライブ579)】
http://www.youtube.com/watch?v=8GqwgVy9iN0&feature=player_embedded
統合本部の設置が必要だという見解には、まったく賛同できません。
事故のあとで統合本部を泥縄的に設置しても、まともに機能するはずがありません。組織論からして常識でしょう。
原発のような事例については、推進する側と規制する側とが、もともと両方設置されている必要があります。推進する側は、東電なので、問題はない。一方、規制する側は、保安院です。しかしながら、日本の原発政策では、推進する方向ばかりが強調され、保安院は骨抜きにされました。あろうことか、「規制緩和こそ素晴らしい。そうすれば企業は自主的に最善を尽くすはずだ」という規制緩和論のもとに、保安院の体制はどんどん低下していきました。
物事は、アクセルとブレーキの双方が必要です。自動車事故だって、事故が起こってからブレーキを踏むのでは、手遅れです。事故が起こる前に強力なブレーキを設置しておく必要があります。
事故のあとで強力なブレーキを設置するべきだった、という見解には、まったく賛同できません。
今回の事故の根源は、保安院がもともと無能・無効であったことです。津波対策さえやっていませんでした。
より根源的には、小泉・竹中以来の規制緩和主義者の方針が、今日の事態を招いたと言えるでしょう。事故が起こってから規制を叫ぶのでは、ご都合主義に過ぎます。
3がつ19日付けのYouTube大前研一「地震から一週間」によるとテレビでマスコミに対応している原子力保安院のスタッフは元特許庁その他の役所から来ている役人で原発には全くの素人だそうです。一般の視聴者も同様の印象を受けた人は多いでしょう。政府には原子力の実務が分かる人はいないのです。アゴラと池田氏のブログで私は何度もコメントしてますが地域独占の東電の体質は役所となんら変わらず、東電の技術者はゼネラリストでスペシャリストではない。現場の機器の特性はメーカーの技術者しか分かりません。政府だけでなく、東電にも問題解決のための当事者能力はないのです。分からない者同士で話をしてどうなるのですか。
大前研一氏は日立で原子炉の設計の経験がありますが東電は「芯から腐っている」と喝破してます。彼らは出入りのメーカー、業者を「お前ら」と呼ぶのです。東電社員の高圧的で横柄な、事なかれ主義、これが今回の事故を招いたのです。大前氏によればバックアップのディーゼル発電機は、驚くなかれ敷地の地下に設置してあったそうです。メーカーの技術者は危険だと思っても東電に問題を指摘することはないでしょう。かえって反感をもたれるだけだからです。
以上の様な事は東電出入りの業者であれば誰でも知っているはずですが警鐘を鳴らす人がいなかったのは残念です。大前氏は日立や東電とはもうしがらみがないので、歯に衣着せず話すのでしょうが、責任ある立場の人としてもっと早く告発してもらいたかった。
JMM(メールんぐリスト)で下記の情報を紹介されました。参考としてURLを紹介致します。
【最悪シナリオ」はどこまで最悪か】
http://www.isep.or.jp/images/press/script110320.pdf