セ・リーグの意思決定は日本の病の一面を象徴しているのではないか

大西 宏

この震災で海外からも賞賛されているのは、国民の勤勉さと秩序が保たれていることでした。自らも被災し避難所にいる若い人達も献身的に活動しており、また現場での関係各位の人びとの献身的な活動、福島原発で身の危険を賭けた作業を行なっている人たちの勇気ある行動に対しては、ほんとうに頭が下がります。


首都圏でも、予想されたよりもはるかに自主的に節電が行われていることも社会意識の高さのあらわれであり、日本は実に高度に秩序のある社会であること、勤勉な国民性を持っていること、さらに現場力もあることがはからずも証明されました。

しかし問題はマネジメントの能力です。その弱さが典型的に見えたのは、セ・リーグの開幕をめぐる決定の混乱です。

いくつかの原因を推測してみました。ひとつは老害です。戦後の混乱の時期もプロ野球が人びとに勇気や希望を与えたという過去の成功体験で判断する人が、実質的に大きな影響力を持っており、それに真っ向から反論できないでいるということが推測されます。

実際は、みんなが必死で節電している時に、たくさんの電力を消費するナイターを行うことは、勇気や感情を逆撫でする意思決定ですが、そのことが理解出来ないのでしょう。つまりファンの気持ちよりも、権力者に媚びることになってしまったことです。

第二点目は、発想に戦略性や柔軟性が感じられないことです。開幕が遅れても、最悪は試合数を変更すればいいことですが、その柔軟性がありません。さらにコストとしての選手の年俸は変わらないので、興行収入を確保し、赤字幅を広げたくないということもあると思います。
しかし、長期の利益はプロ野球のファンを増やすことであって、それはマーケティングの基本です。下手な意思決定は、ファンを獲得できるどころか、ファンを失うリスクのほうが高いことはいうまでもありません。
実際に球場が確保できるかどうかは分かりませんが、東京ドームにこだわらず、また興行収入は犠牲にしても、ナイターではなくデイゲームでゲームを開催することにすれば、まだ共感が得られたのかもしれません。それなら勇気と希望を感じてもらいたいということも伝わるでしょう。

またパ・リーグの日程に合わせれば、まだ人びとの納得も得やすかったはずですが、セ・リーグの面子にこだわったことがあるのかもしれません。だからセ・リーグ独自の決定を出したのでしょう。自らを捨て、ファンを第一に考えるという思想はないのかと感じてしまいます。

また小出しに意思決定を行うことも最悪です。最初は延期しないとしたものを、選手からまた人びとからの批判があがると、小出しに4日間の延長を決めました。それがさらに不信感と批判を高めることになってしまいました。さら変更を余儀なくされるものと思います。

これだけ、質の悪い意思決定は、セ・リーグにはまともな経営を行う機能がないことを物語っています。長い時間をかけ、議論し合った結果に出てきたものがファンも納得しない、選手も納得しない結論ですから話になりません。

しかし、思えばマネジメントの不在は、セ・リーグに限ったことではありません。日航も常識では考えられない経営が行われていたことが発覚しています。大企業病に陥り、チャレンジ精神を失ってきた原因は現場よりも、むしろ経営の質にあったのかもしれません。

本来は情報通信革命を取り込み、ビジネスを効率化し、また競争力を高めることが必要でしたが、日本はそれに遅れてしまったのも、過去の成功体験にこだわり、情報通信の利用を阻んだ経営の古い体質にあったのではないでしょうか。

東電も、現場は必死の努力をしているのに、どうもバックアップ体制としての経営の動きの鈍さが気になります。さらに官房長官と保安院、東電が同じような会見を行なっていることも危機対応として疑問に感じますが、それもマネジメントの問題です。
福島原発事故対応で、遠隔操作で無人で放水できる重機の提供を申し入れた経営者が、東電に連絡しても返事が帰ってこないというのも不思議な話です。

いずれにしても、日本の競争力が劣化し、産業転換が遅れてきたことは、マネジメントの問題かもしれないという反省を行ういい機会になればと感じます。

コメント

  1. yamaguchiiwao より:

    普通のセンスでは東京電力エリアではナイターはNG。中部電力以西ではナイター問題ないという単純な話ですが。。。。
    山口 巌

  2. greetree より:

     ナイターはダメというのは理屈になりますが、延期しろというのは理屈にならないでしょ。
     半月延期しても、電力不足は解決しません。どうせ延期するなら、シーズン中の試合をすべて中止するべきです。

    > ファンも納得しない、選手も納得しない結論です

     1~2週間延期すれば、ファンや選手は納得するでしょう。
     しかし、それで問題が片付くわけがない。半月先のことがわからないのかな?
     電力不足はそんなに簡単には解決しません。延期すれば済むという発想は、どこから来たのでしょう? 
     半月だけ取りつくろえばいいという、その場しのぎの発想が、日本を破滅させます。
     今の節電ブームはその証拠。節電したって、問題は解決しないし、かえって恐慌になる危険があります。

     世論の言うとおり、「また半月、また半月」というふうに節電や計画停電を延長していけば、やがては経済が縮小して、日本は恐慌に突入します。

     半月先のことまでしか理解できない朝三暮四の猿みたいなファンよりも、今後の日本社会の行く末を想定している経営者の方が、よほどマシであることは確かです。馬鹿は馬鹿でも、最悪ではない。一方、世論は最悪です。今のままでは、日本は破滅します。(下記リンクに説明あり。)
     
      → http://bit.ly/f575qF

  3. やっとアゴラでもプロ野球のことに触れて下さいましたね。有難うございます。たかがプロ野球でも、日本社会の縮図です。大相撲の八百長だって、ファンはほぼわかっていた。野球だって、全ては巨人の思惑で動いてきたことは周知の事実です。江川問題、ドラフトの逆指名、有力新人の不自然な一本釣り、審判の偏向、きりがありません。ただ、なぜか他球団は巨人のいいなり、メディアも相撲のようにワイドショーでの批判はしない。これは渡辺恒雄氏が長らく、メディア寡占構造、メディア利権の最大、最強の防波堤だったからです。今回のような暴論でさえテレビは、そのうち擁護に向かうのでは、と思ってしまいます。コミッショナーは受諾する段階で読売の傀儡です。かって、ただ一人、読売に異を唱えた下田武三コミッショナーだけ、野球殿堂入りしていません。加藤良三氏も勇気ある決断をしていたら、後世まで称えられたでしょうに。この老齢で何を恐れるのか?殺されるわけでもないでしょうに。ファンのボイコットしかないのでしょうが、そんなことはないと、見切られているんでしょう。

  4. takarayui より:

    球場にファンを呼び込むためには、
    ・球場への行き返りの足が確保されること
    ・電気の無駄遣いというそしりをまぬがれること
    の2つが必要だと思います。
    そういう意味でプロ野球の開幕は時期尚早では
    ないでしょうか。

    日本人に元気を与える、夢を与えるというなら
    デーゲームで開幕して、収益金を全部被災地に
    寄付すればいいと思います。

  5. rabbitge より:

    最初の決断がすべて起因していると思います。「予定通り開催」「
    ナイターもする」つまり、この決断で意思が明確に示された訳です。「震災は野球とは関係ない」

    野球選手の皆さんも理解した方がいいです。選手の皆さんはただの駒です。興行のための駒です。もし野球を強行してそのため電力不足が発生した場合。最優先で停電になるのは野球をしている都心ではありません。被災している都心以外です。供給不足になった場合の大停電は都心を守るようになっています。

    選手は人の命を奪ってまで野球をしたいのですか?

  6. yutoa より:

    論旨と外れて恐縮ですが、最初の方のコメントのように西日本を中心に興行は行うよう模索すべきだと思います。

    夢や希望を与えるのは、プロならではのプレーを行った上の結果であって、(しかも受け手側の心象であり)それ自体を目的とするべきではないと思います。

    ましてや今後はチャリティマッチなどが開催できる可能性もあるわけで、率先して貢献できるわけです。自粛ありきでは職場放棄のような気がします。

    もうすぐセンバツがはじまりますが、プロ選手が「野球をやるどころでない」というならば、高校生にもやらせるべきではない。被災した方のほうが仕事なんてやるどころじゃないですよ。でも、野球に限らず、あらゆる人々が状況を見た上で、前に進んでいくという気概を持つことでしかしか、日本が立ち直るすべはないんではないでしょうか。

  7. shinshi8848 より:

    そうなんです。原点に戻って考えれば。
    「プロ野球」は、一体誰のために行われるのかを考えれば
    コミョショナー、選手、ファンのため。
    ファンあってのプロ野球でしょう。
    私、個人の意見では、パリーグの同時開催の決定を望んで
    いたのですが。。。
    でも、東京DOМEの伝統のG×Tでさえ、チケットの売れ行きが
    芳しくないみたいですよ。

  8. sarasaratyug より:

    日程ふくめて、全て楽天に合わせてはどうかな
    被災地の楽天が万全になるまで全部延期

    電気やチャリティーが話題になってるけど
    プロ野球界全体で楽天を支援したらいいんじゃないかな
    仙台の被害すごいよ
    利益や日程、収益とか言ってるけど、こうなってきたら人情の問題なんじゃないか

    どうせやるならさ
    「我々の心は仙台、東北の人達とともにある 立ち上がる時は一緒だ」なんてプロ野球全体で国家的一体感出したほうが戦略的だと思うけど

    一言 野球ファンに言いたいんだけどもっと仙台の楽天ファンに同情しろよ 野球どころじゃない人たちが大半だろ

  9. yume_7389 より:

    全く、その通りです。何年か前にもナベツネは、早く消えてほしいとのメールがたくさんあったことを思い出す。巨人さえよければが見え見えです。どうしても強行するのであれば、文京区を計画停電の地域に入れて停電させればよいのです。
    見に行かないようにとファンにお願いしたいところですが、巨人ファンは自己中心者でアホが多いので・・・