リビア、カダフィ大佐に残された時間はもう余りなさそうである。BBCが報じる所では、国連軍の支援を受けた反政府軍は主要都市を次々と陥落させ、カダフィ大佐の故郷Sirteを目指している。勿論、Sirteが陥落するのも時間の問題である。今回攻撃に参加した、アメリカ、ヨーロッパ政府は自らの手をカダフィ大佐の血で汚す事を避ける為に、リビアの事はリビア人で決着する様に繰り返している。
日本人の常識では、平和的にカダフィ政権から新たな政権に権力が継承され、カダフィ大佐は法の支配の下で司法の手に委ねられると言う事であろう。しかし、現実には捕らえられ、拷問されそして処刑されると言うのが最も可能性の高いシナリオではないか。
訝しいのは、BBC記事最後の2行にさり気なく書かれたQatarのつんのめりとも言える、リビア反政府組織承認宣言である。
Meanwhile, Qatar has become the first Arab nation to recognise the rebel council as the official representatives of the Libyan people.
Qatarは湾岸諸国(GCC)の中では小国であり、過去イニシアチブを取る事等なく、GCC内大国のサウジやUAEの後を大人しく付いて行くと言うのが従来の役回りの筈である。
一体何がGCCの小国Qatarを、リビア関与に駆り立てているのだろうか?
その回答は野口氏の記事にあった。Qatarの国営石油会社QatarPetroleum社がリビアの全ての石油関連業務を請け負うと言うのである。
このQatarPetroleum社は歴史的にフランスの国営石油会社、TOTAL社と繋がりが深く海底ガス田開発の為の合弁会社を設立した実績もある。
ここからは全て私の個人的推測であるが、アラブ人の感情に配慮して、湾岸のQatarPetroleum社が石油業務を請け負うとの体制を取りながらも、実質フランス、TOTAL社がリビア石油利権を握るのではないか?
そう言えば、腰の重かったアメリカに比べ、リビアを最初に爆撃したのはフランス空軍であった。ここでフランスが何故つんのめってリビア空爆を開始したかが明らかになる。
イギリスに就いては、既に石油利権や武器輸出に絡みブレア元首相とカダフィ大佐との不適切な関係が国内政治問題に迄なっている。カダフィ大佐を亡き者にする事で全てを闇に葬ろうとしているのではないか?勿論、リビア政府軍攻撃に参加する事でしっかり既得権益を死守する筈だ。外交上手なイギリスの事であるから、火事場泥棒的に権益の拡大に成功するかも知れない。
リビアの原油が高品質の軽質油であった事も、攻撃を急がせた背景にある筈だ。リビアの原油の輸入国である、イタリアやドイツの製油所ではサウジの重質油やイラニアンヘビーは処理できず、当面は備蓄でやりくりするとして矢張り早期の輸出再開が必要であったと思う。
言える事は、全てが欧米の都合、理屈そして利益であると言う事だ。
リビア危機が去る事で危惧したオイルショックはどうにか回避出来そうである。しかし手放しでは喜べない。
今回のリビア動乱で、アラブの民は従来に増して欧米に対し鬱屈した感情を抱く筈だ。これは結果アルカイダの温床となる可能性が高い。欧米でのテロ頻発を危惧する。これを防ぐにはキャンプデービッドの合意を前に進めるしかないが、アメリカ、オバマ大統領を含め、この役どころ演じる事が出来る役者が居ないというところであろう。
山口 巌