備蓄できない電力を市場経済に任せてよいのだろうか?- 岸田 信勝

今回の東日本大震災は、1000年に一度ともいわれるM9.0の大地震に始まり、巨大な津波、原子力発電所の事故、放射能汚染に伴う地域住民の避難、農作物および水源の放射能汚染(健康被害があるかどうかは今後評価によるが、風評被害は確実に発生している)そして、東日本一帯の電力不足を起こしている。この電力不足は、経済活動にも影響が生じている。いまだ、すべての行方不明者の安否も確認できていない中で恐縮ではあるが、日本経済において今後の最大の問題は、福島原発を失ったことによる発電力不足であろう。


巷では、電気消費量を下げる施策として、電気料金の値上げや増税などを考えている方が多くいるようであるが、果たして市場経済に任せていてよいのであろうかという点を考えてみたい。

現時点で都心では計画停電の範囲にはなっていないが、電力需要が増える夏場には、都心の商業地域も計画停電に含まれるかもしれない。少なくとも東電から大口契約者に対して要請がきているようである。また、レジャー施設やプロ野球の興行などにも多くの電力が必要であり、それらの営業においても、大きな制約が生じている。

ここで注目しなければならないのは、計画停電以外の電力事故というリスクであると思う。そもそも計画停電を実施しなければならない状態というのは、不意な停電という電力事故に見舞われるかわからない状況であるということである。首都圏の多くの企業は計画停電の他に電力事故に備えなければならなくなったのある。

一般的な企業のBCPにおいては、2005年に経済産業省で策定された事業継続計画策定ガイドラインをもとに策定されている。これには巨大地震やテロや大規模な情報システム障害などについて対応例としても記載されている。そして、最近では新型インフルエンザ対策まで考えられてきた。しかしながら、広域停電に関しては上記のガイドラインにも特に記載がなく、対策が講じられていない場合が多い。

特に情報システムにおいても、データセンター集約やバックアップセンターの構築などの対策は進められているが、電源確保に関してはデータセンター事業者に任せているなど意外なほど電力供給について無策である場合が多い。

たとえば自家発電設備を有していても、サーバ機器の稼動ができるが空調機まで発電量がない、燃料備蓄の上限による連続稼働時間の制約、または予備機がない場合など必要十分な自家発電設備を保有しているデータセンターは少なくはない。この夏に向けて多くのデータセンターは、自家発電設備の拡充や燃料の確保に躍起になっているとの話である。

今は情報システム子会社に勤務している身であるが、10年前は電力流通関係部門に所属していた執者としては、電力の安定供給のために高度な電力ネットワークが存在しているということを述べておきたい。それはインターネットなどのIPネットワークよりはるかに高度なものであり、日本独自の技術に支えられているものである。この夏場までの2,3か月でどうこうできるものではないと考える。

参考までに、詳細は電力系統図は、多分テロ対策であると思われるため公開はされていないが、電力系統の構成及び運用についてのレポートが経済産業省から公開されている。

このレポート全体を把握する必要はないが、要は電力需要に対して発電供給が追い付かないという問題は、「大電力を貯蓄できない」という事実を考慮すると、非常にテクニカルであり、かつクリティカルな問題であることを認識して欲しい。

電力需要を抑制するためにの電力料金の値上げや税の導入など解決できる問題ではないのである。需要が発電量を越えるか、押さえるかの選択しかないのである。

また、電力流通の自由化という提案もあるが、電力供給に関しては巨大な設備投資も必要であり、既存電力会社以外に安定供給できる企業は限られている。東電の計画にはそういった発電量も含まれている計画である。将来的にはスマートグリッドが整備されてからでないと電力市場の自由化は無理であると言わざる得ない。

確かに電力需要を少なくするために値上げという発想は理解できるが、市場経済にゆだねてよいものは貨幣で相互的に代替できるものだけなのではないだろうか。大電力は備蓄できないという一点から、電力を貨幣で替えることはできても、ありえない備蓄電力を貨幣で買えない以上、市場原理で考えることは根本的に間違っていると思われる。市場原理が通用するのは相互交換できる場合のみではないだろうか。この点に関しては経済学者のご意見を伺いたいと思う。

しかしながら、不足している電力に対して、企業はどう対応するかは市場経済に委ねるのがよいと考える。どのように足りない電力を補っていくのか、節電するのか、リスクテイクをどう考えるかという点においては必然的に市場経済の法則に従うことだろう。

短期間的には、電力不足に対する短期的な対策としては、ピーク時の需要拡散しか手段がない。それはサマータイムの導入などと生ぬるい政策ではなく、夜間深夜の生産活動、地域ごとの休日設定、西日本へ拠点の移動などが考えられる。また、児童や学生などは夏休み期間中は西日本へ疎開するのもよいかもしれない。これは行政的に推進していくしかないかもしれないが、いつ電力事故が発生するかわからない状況では、多くの企業は本社機能や情報システムは西日本にもっていくのが安全と考えるだろう。またそれを容認または税制的に優遇してもよいかもしれない。一時的には首都圏は活力を失うだろうが、不意な電力事故が発生するよりはまだマシである。

中期的には、消費電力が大きい大規模事業者は東日本に残さざえない設備に対しては、ガスタービンエンジンや燃料電池などの自家発電設備の整備を行っていくことになるだろう。レジャー施設やプロ野球興行なども自家発電で賄えば、その興行自体を非難されること自体はないだろうし、余剰電力を東電に供給することも可能だ。

長期的には、原発はもとより新規発電所の建設は困難になるであろうから、スマートグリッドの導入による省エネルギーで自由市場が形成されていくとではないかと思われる。

(岸田 信勝  総合電気メーカーIS子会社勤務)

コメント

  1. greetree より:

     全体的には良い内容ですが、次の一点がダメです。

    > 不足している電力に対して、企業はどう対応するかは市場経済に委ねるのがよいと考える。

     それなら、今のこの電力不足の状況で、節電する企業はなくなりますよ。自社の利益ばかりを考えるのが市場原理であり、全体のことは無視しますから。
     市場原理とは別の方法で節電に成功した現状から何も学ばない(それどころか現状の成功を否定する)市場原理主義が出るのは、まったく残念です。
     自分で自分の言っていることを理解できていないようですね。

  2. celebritypokerj より:

    「電力を値上げしても需要は抑制できない、なぜなら備蓄できないから」とのことですが、私はそういう感じはしません。

    事業所によっては、自家発電に切り替えようかどうしようか迷ってるところへ、この電力不足の話になったので、じゃあそれならと背を押された形で自家発電装置を導入したところもあるようです。

    また、首都圏から離れて、西日本に工場設備を移動させる検討も行われるのではないでしょうか。

    このようなところで、価格メカニズムは有効に作用するのではないかと思います。

    早急に新しい電力価格を設定が求められると思います。どちらが低リスクで、安く済むか、比較検討する時間が必要です。

  3. hogeihantai より:

    電力はある程度備蓄できます。例えば工業製品の在庫を余分に持てば電力はその製品の中に備蓄されているといえます。現在自動車会社が操短、又は操業停止しているのはジャストインタイム方式で在庫を持っていなかったからです。

    市場原理に任せていれば電力不足も緩和されていたことも事実です。1995年に卸電力売電が可能になりましたが、電力会社にIPPが入札という方式をとった為、殆ど普及してません。送電配電を電力と完全な別法人としIPPが送電配電会社に売電する方式をとっていれば多くの自家発電を持つ企業がIPPとして参入していたはずです。

    ガス会社も売電できるようになれば電気と熱供給(温熱水)を同時に可能となりエネルギー効率は倍になります。これはコゼネレーションと呼ばれる方式で都市部で有効な方法です。燃料電池と組み合わせれば更に高効率となります。技術は既にあるのに広く採用されないのは法規制のせいです。電力会社は熱供給がガス会社は電力の販売ができないのです。

  4. kotodama137 より:

    市場原理でできない事は無いと思います。買いたい電力会社がコールをかけて、売りたい電力供給所が発電量を増やせばいいのでは、でも原子力より安く電力を売れるかなあ。
    個人の風力や太陽発電から電力を供給受ける方法もあるが、今からは間に合わないし、人口も減り右上がり経済を望めない日本で、消費量が増えると思えないし。
    そもそも電力業界って、市場原理で動いているの?競争の原理が動いているように見えない。全社一斉電気料金を上げている。まずそれから変えるべきでは。

  5. greetree より:

    ニュースから
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    フルーグフェルダー氏によれば、米国人は個人主義に基づいて行動する。自分の利益を守るために全力を尽くし、他人も皆そうするという共通認識の下に、「見えざる手」ともいうべき秩序が生まれる。「日本人の場合は違う。秩序は集団や地域社会から、個々の要求を均等化するものとして発生する」と、同氏は語る。こうした傾向は大地震からの復興に役立つかとの問いに、同氏は「ひと言でいえば、そうだ」と答えた。
    http://www.cnn.co.jp/usa/30002136.html
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     市場原理が成立するのは均衡状態のときだけだ、ということも理解しない人が多すぎる。
     圧倒的な供給不足のときに市場原理を原則とすればどうなるかもわからないとは。情けない。

  6. izumihigashi より:

    電力は長期にわたって備蓄する事は難しいですが、発電所の発電前のエネルギーとして備蓄する事は可能でしょう。
    火力の場合は石炭や石油。水力の場合はダム湖の水。
    長期の備蓄という必要は電力の場合はなくて、一日の需要の増減幅、この振幅に対応できるように備えられれば良い訳です。

    となると、充電池が手っ取り早い。NAS電池っていう大電力に対応する放充電システムがあります。発電所内に巨大なNAS電池システムを組み合わせる事で、電力需要の振幅のピーク側に対応する事が可能となるはずです。