今の日本は”第二のリスク”が近い1944年に近似している

石川 貴善

東日本大震災によって「第二の敗戦」が来たといわれています。一理ありますが、現在抱えている時代認識はむしろ第二のリスクが近い1944年(昭和19年)に近いと考えます。近似している要因は


1)社会システムがきしんでいる中、既存の枠内で対応しようと躍起になっている
2)国際情勢への変化対応が不十分
3)国民や現場への負担を強いる
4)組織の官僚化が進み、意思決定の誤りが多いうえに時間がかかる
5)スローガンが乱発する
6)モチベーションがあまり盛り上がらない
7)共に街角でうわさ話が蔓延する

が挙げられます。例えばエピソードとして、
6)のモチベーションに関しては、小康状態なものの依然として進行中の原発事故や、方向の見えない復興も関係しています。1944年の軍需工場での作業効率は、情報が知らされず相対的に栄養事情も良かった囚人が最も高く、情報を知っているベテラン職員ほど低い、と言われました。
7)のサイパン玉砕の大本営発表は1944年7月18日に行われました。6月15日に米軍が上陸して24日には同島放棄を決定しましたが、永井荷風は発表前の7月13日に街で聞きつけて日記に書いています。

こうしたことから、6月のマリアナ沖海戦の大敗・サイパン失陥によって時の東條内閣が瓦解し、一撃講和の小磯内閣が発足し終戦工作が開始されました。
既に震災から50日以上経過し今の状態は相当な国難ですが、このまま無為無策のまま徒に月日を重ねていきますと、今後新たに来る自然災害や不況などに対して大きな脆弱性を持ち、色々な角度から本当に第二の敗戦となるトリガーとなっている状況です。

有価証券報告書ではリスク情報の開示を行っていますが、同じアプローチで日本全体を見ますと、いずれのリスク要因も看過できません。

・新たな自然災害(余震だけでなく、震源の異なる地震や台風など)
・自然災害に伴う二次災害
・原発事故処理に対する国際社会からの信用低下
・国債格下げ
・財政破綻
・部品の供給制限と電力事情
・増税に伴う不況
・東北を中心とした第1次産業へのダメージ
・地域経済の疲弊
・少子高齢化
・旧来のマネジメントと経済システムによる、低い経済成長 など

こうした中では逆に「このままではいけない」といった国民的コンセンサスが定着したほうが良いですし、今後は世論形成が必要な時期にあると言えるでしょう。現状認識として”第二の敗戦”と言われる割には、新しい時代に立ち会うわくわく感がないこと、何より大きいのは明治維新や戦後とは異なり、国内全体で年齢構成が高齢化しており、変化への対応が容易ではないことが今後憂慮されます。

特に官僚機構のガバナンスと組織のマネジメントは大きな課題です。今回の震災では自衛隊は献身的な災害派遣を行っておりますが、現場に大きく負荷がかかり、個人装備品は自腹での対応が余儀なくされています。これに対して米軍は、911以降の実戦経験が大きく利いていますが、津波で被害を受けた仙台空港を、空軍と海兵隊による空挺で人員と資材を送りわずか1日で復旧させるなど、対応の差が明らかになりました。
辛抱強い国民性や現場での頑張りは海外から賞賛されましたが、海外の組織運営やマネジメントなど虚心坦懐に学ぶ時期といえるでしょう。

石川 貴善(アゴラ執筆メンバー)
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