保身から欺瞞へ動く菅政権

山口 巌

1次補正予算案が昨日衆院を通過した。予算案の中身に問題はあるが 野党各党は一様に早期の復旧対策の必要性に優先順位を与えたのである。

その中で、鳩山邦氏一人が棄権した

補正予算案を全会一致で可決したのは、2005年1月の新潟県中越地震の復旧対策を盛り込んだ補正以来。ただ、無所属の鳩山邦夫氏は本会議を途中退席し採決を棄権した。鳩山氏は朝日新聞の取材に「歳入で年金財源を流用し、将来に禍根を残す」と述べた。

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尤もな主張である。こんな事を繰り返せば何れ財政規律の順守は死語となり、国債は暴落、日本の財政は壊滅する。

何度も指摘したが、菅政権の本質は保身とその為のパーフォーマンス。そしてその背景にあるのは、菅首相が市民運動上がりで、決して原理原則を尊重する事なく、場当たり的な対応に終始する事である。露骨に言えば恒常的な知的判断の不在であり、これが今日の国民の眼前を横行する欺瞞に繋がったと思う。

将来に大きな禍根を残す事が確実な今一つの欺瞞が、東京電力の救済スキームである。本来どうすべきかは既に記事にして投稿済みである。

東京電力をどうするか?に就いては、結論から言ってしまえば発電と送電部門に2分割した上での国有化しかないと思う。
肝心な点は、電力の安定供給の確保と、明瞭な責任所在の伴う簡潔且つ短期で賠償業務を終了さす事の可能なスキーム構築と考える。

一方、政府が進め様としているのはこれとは真逆で、金融機関も社債保有者も保護されて、国は責任問題の前面には出ずに済む、将来欺瞞の温床となる事が確実な下記原発賠償機構のスキームである。

東京電力

そもそも、今回の賠償業務の原因となった福島原発事故の初動から、菅首相と東京電力清水社長のやり取りは異常である。

下記は東大、岩本教授のブログを参考にした、飽く迄私の勝手な推測である。

先ず、事故直後菅首相が東電、清水社長に対し、逃げれば潰すと恫喝した。これは背後に、逃げなければ潰さないのメッセージがあった筈である。

議論の出発点を,「原発事故で政府と東電が統合本部 首相、対応を批判」(共同通信,http://www.47news.jp/CN/201103/CN2011031501000074.html )にある,3月15日の出来事にとろう。東京電力が撤退の意向を示したときに,菅首相が「撤退した時には東電は百パーセントつぶれる」と恫喝したと伝えられているが,これは「逃げなければつぶれない」ことが暗黙の前提である。かりに,「逃げればつぶれる,逃げなくてもつぶれる」となれば,社長が経営者としての役割を果たすならば,逃げる。

尤も、東京電力は逃げれば潰すと恫喝を受けたのは事実としても、逃げなければ潰さないの言質を取った訳ではない。東京電力の如き会社が保身に動くのは当然である。

清水社長の、病気を理由にした緊急入院は菅首相の覚悟を試す揺さぶり行動ではないのか?

また,今後については,不幸にも重大事故に発展してその処理が求められたときに,逃げればつぶれる,逃げなくてもつぶれる,という状態を作り出す。枝野官房長官は4月18日の記者会見で「プラントそのものを安全な状況に回復させることについての一義的な責任者は東京電力、事業者だ。政府としては、それが本当に安全のために、最善のことが行われるのかということをしっかりと管理、チェックをする」と発言したが,政府の関与がもう少し強くないと,事故対応のリスク管理上,深刻な問題につながる。

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110418/plc11041819410024-n1.htm

そして、結果東京電力の粘り勝なのか、今回の原発賠償機構の如き欺瞞のスキーム採用に決定したのではないか?

Diamond Onlineの記事を参照すれば結論は末尾の4行に集約される。

この場合、「原発賠償機構」の役割は何か。一言で言うと「(東電の)金融機関、社債保有者、国の負担を、東電の顧客負担にすり替えるための、時間と、曖昧さを作るための仕組み」ということになるだろう。
サンデル先生のいう通り、日本国民は、もっと議論した方がいい。

平たく言えば、病巣にメスを入れ切除する事無く、今あるものは全ては温存し、補償にかかる費用一切合財を原発賠償機構経由国民に電力料金の値上げで負担さすと言う欺瞞の仕組みである。

これが欺瞞でないとするならば、一体どの様な行為が欺瞞に該当するのか、是非菅首相には説明戴きたいものである。

山口 巌