「自然エネルギー」は原発の代わりにはならない

池田 信夫

ソフトバンクは、19の道府県とともに「自然エネルギー協議会」を設立すると発表した。孫社長によると「全国の耕作放棄地や休耕田の2割に太陽電池を設置すれば原子力発電所50基に相当する5000万kWの供給力を得ることができ、天候による発電効率の低下を考慮しても全国の電力需要の20%をまかなえる可能性がある」というが、これは錯覚である。太陽電池をいくら増やしても、原発を減らすことはできない。


原発の1基100万kWというのは常に出せる出力だが、太陽電池の出力はピーク値である。これは雨の日はゼロになるので、電力設備としては当てにできない。原発は1日中稼働しているベースロードなので、これを削減するためには火力を増やすしかないのだ。

図は1年中で電力消費が最大となる真夏の1日の電力需要の推移だが、このピーク値Pに合わせて設備投資が決まる。再生可能エネルギーの最大発電能力が5000万kWだとしても、設備投資はその最小発電能力で決まる。雨や無風のときは再生可能エネルギーはゼロになるので、火力+原発でPの発電能力を確保しなければならない。

したがって、いくら再生可能エネルギーが増えても、夏場のピークロードとして使えるだけで、原発のようなベースロードの代わりにはならない。100万kWの原発を減らすには、100万kWの火力を増設するしかないのだ。もちろん再生可能エネルギーの分だけ火力の燃費は減るが、原発を減らした分だけ燃費が増えるので、後者の影響のほうがはるかに大きい。東電の場合、福島と柏崎を止めただけで、今期の燃費は1兆円も増える。

だから「脱原発」をめざすなら、「メガソーラー」を建てるのは役に立たない。Pと1日の最小値の比を「負荷率」と呼ぶが、東電の負荷率は約60%ときわめて効率が悪いので、重要なのはPを下げることである。村上憲郎さんもいうように、デマンドレスポンスやネガワットといった技術によってピークを下げれば、最大で40%の発電所がいらなくなるのだ。

こうした節電技術の分野は大きな設備投資がいらないので、ベンチャーでも参入できる。来月のアゴラ起業塾では、そういうビジネスを紹介したい。重要なのは、補助金や自治体との「協議会」ではなく、こうした新しい企業が参入できる競争環境を整える電力の自由化である。

コメント

  1. kamekame2011 より:

    池田先生のおっしゃるとおり電気代にはベースロードのオーバーヘッド分が上乗せされる、原発分相当の火力発電所の増設、当然現行の設備も含め稼働率が太陽光発電が有効な時間帯、天候時に優先使用されるので低くなりその分も上乗せとなる。
    更には太陽光発電があるため太陽光発電より低コストな発電設備があるにもかかわらず優先的に太陽光発電を買い取らなくてはならない、しかも買い取り価格が40~45円になるのでその分のコストも電気料金に上乗せされる。
    結局再生エネルギーで得をするのは発電分はすべて買い取りが保障され買取価格も保障される再生エネルギー業者でしょう、当然そこには新たな利権が生まれるのは間違いない。
    既に鼻が利く事業家は動き始めてる。

  2. kiokada より:

    夏の日中、電力消費利用ピーク時に合わせて発電設備が投資されていると聞きます。

    クーラーのまわる晴れた暑い日・・・、ということは太陽光発電もフルに発電できるのではないか、と。まぁ原発の完全代替は無理な気がしますが。

  3. tetuko_trail より:

    この際、原子力発電自体が非常に原子的な技術であるということも発見になるのでは。①臨界事故になっても、複雑な機械やシステムではなく、ヘリコプターで水を落下させて消火する、という非常に初歩的なアプローチから収束活動が始まった。リアルタイムテレビジョンとともに蛮勇とも言えるほどの自衛隊の献身には敬意を表するが所詮、現在の技術水準でも臨界事故には水をかける等、原子的な技術が有効である。②プルトニウム発電はまだ無理なのかもしれない。しかし原子的にも思える地中化技術は、最終処分としてかなり有効に思える。ほとんどの良識を持った人は、最終処分は今の所地中化しかないと理解しはじめているのではなかろうか。最終処分のコンセンサスさえ一致できれば軽水炉は、制御可能な技術に一歩近づくと思う。③メルトダウンも致命的な事故にはならなかった。すくなくともコアには穴があいても、チャイナシンドロームというSFは所詮SFであると証明され、飛び出した放射能はなんとかしなくてはならないが、軽水炉の技術の素朴さ安全さを妙な結果で証明したとも言える。ふわふわと浮いては消えていく「自然エネルギー」。太陽光もしかりだが、以前は波の力を利用した潮力発電も真剣に検討されていた事もある。いまはツナミを体験し、あのエネルギーを制御しようとする方がキチガイであろう。沖縄のミドリムシの類も、すでに25年前に似たような微生物が脚光をあび、消えていった事実もある。電気エネルギーの技術の難しさは、一定のエネルギーを供給し続けなけれならない所にあるのでは?

  4. yusafuphoto より:

    孫さんは「電田プロジェクト」と題して23日に国会で熱弁を振るいました。
    その中では、夜とか雨の日を使えるわけではないとの考えもふまえて「電田プロジェクト」を立ち上げています。

    もちろん太陽、風力、地熱を含めて考えても無理が生じることがあるかもしれません。しかしながら自然再生エネルギーを否定するのは早いのでは思いますが・・・。

    孫さんの発言はこちらにまとまっております。
    http://syararin.blog50.fc2.com/blog-entry-1349.html

  5. rityabou5 より:

    孫氏も雪を見たこと無いわけではないでしょうに。太陽光パネルの上に雪が積もったらどうするつもりなんだろうか?

    閑話休題

    電気料金は、契約コースを選択して、

    ◆通常コース
    1kWh…17円

    ◆エルフナイトコース
    昼:1kWh…20円
    夜:1kWh…7円

    まあ、だいたいこんな感じの料金体系です。
    (↑大雑把というか非常にいいかげんな説明です。
    正確なのは各電力会社のHPを参照してください)

    現状通常コース契約の人は電気使用を夜に回すインセンティブが【皆無。ナッシング。ゼロ】なんですね。だから、池田さんの提案されているデマンドレスポンスのような概念の導入の効果はかなり大きいと思います。

  6. pablo_ogawa より:

     提示のグラフでは、太陽光発電の出力がピーク時に最も多くなるということが反映されていません。夏の曇りの日ならならこんなものだと反論されるでしょうが、曇りの日(発電量はゼロにはならない)ならそう暑くはなりませんから、電力需要は落ちます。我が家の発電実績も提示したいところです。

     あまりにも恣意的な図だといわざるを得ません。

  7. 池田信夫 より:

    夏のピークには太陽エネルギーも多いので、太陽電池はピークロードとしては使えます。しかし曇りで太陽電池が使えない日でも、冷房の電力消費はほとんど変わらない。火力+原子力の設備はそれを想定して決まるのです。

  8. katuhiro1192 より:

    原発利権などを潰すには、新しい利権を作るしかない。
    原発反対だけでは、飯は食えないし真剣に取り組む人材も集まらない。

    太陽光や風力や地熱など、再生エネルギーにイノセンティブをつけ、それ自体が『産業』として成り立ち、発言力を持たせる事が出来れば、原発利権にすがる人も少数になるだろう。

  9. worldcomw より:

    少し視点を変えて、『ベースロードが火力でも電子力でも、
    太陽光を増やす方向に変わりは無い』 と考えてみます。
    ◎×は、太陽光と組み合わせた場合の利点・欠点です。

    *火力の利点
     ◎負荷追従性が高い為、太陽光を100%利用出来る
     ◎(原子力比で)初期コスト・休眠コストが低い
     ・(今は)設置が容易、分散配置も可能、短期間で増設可能
     ・立地・住民感情の点からコジェネが容易
     ・健康リスクが見えにくく、世論的に容認されている
    *火力の欠点
     ×太陽光と組み合わせた場合、コジェネが困難
     ・CO2排出・温暖化
     ・燃料費の原価割合が高く、高騰・地政学的リスク有
     ・工業原料となり得るものを、エネルギーに転換してしまう
     ・ライフサイクル全体で見て死者が多い
    *原子力の利点
     ・CO2排出・温暖化が少ない
     ・ライフサイクル全体で見て死者が少ない
     ・他に利用価値の無いウランの有効活用
    *原子力の欠点
     ×負荷追従性が低い為、太陽光に不適
     ・放射能リスク、事故時の影響甚大
     ・リサイクル未確立、ウラン海外依存
     ・国内廃棄コストが過大、実績なし
     ・原子力を放棄しても、莫大な負債が残る
     ・当面設置が不可能、発電まで数十年かかる
     ・立地・住民感情の点からコジェネが限定される
     ・政治的に利用されやすい
     ・夜間の電力浪費を促している

    つまり、太陽光は旧世代火力の代わりになるかもしれない
    (が、現状では低効率&高コスト&部分的)ということですね。

  10. mafarava より:

    “夏のピーク時には、太陽光発電量も多い” という発言があるが、それは間違い。

    それがいえるのは、発電場所と消費場所が同一の時だけである。

    耕作放棄地利用ということから考えても、まさか23区の中にメガソーラープラントを設置するということではないのは明らかで、消費地とプラントの間にはそれなりの距離があると考えられる。

    であれば、電力消費地では快晴で猛暑であっても、プラント設置場所もそうだとは限らず、曇りや雨天だった場合には、発電量はほとんど見込めない。

    そういうときに消費地で大停電が起こっても良いのならばいいが、そうでないなら、それを補うための化石燃料発電設備は結局のところ必要となり、全くの無駄である。

  11. rityabou5 より:

    >5.
    > 太陽光パネルの上に雪が積もったらどうするつもりなんだろうか?

    45度くらいに傾けて設置すれば、パネルに積もった雪は勝手に下にずり落ちてしまうそうです。

    それから、ふっと思った。

    太陽光に頼り過ぎたら日食が来たら面白いかも。

  12. ganz007jp より:

     確かに発電能力というものをkWだけで考えることは無理があり、電気には安定供給しなければならない問題もあります。

     でも孫さんはきっと自然エネルギーで原発や火力がなくなるなんて思ってないでしょうね。自然エネルギーに依存したら、電力供給の安定性が損なわれることは当然。
     でもうまく首相をその気にさせて「太陽光発電1000万戸」って国際会議で言わせちゃうんだから、大したもんだ。

     前回の鳩山さんも国内での協議もなしに国際会議で空手形切ってたけど、またやっちゃった。空気読めって国際会議で注意するやついないのかな。サルコジさんとかいいそうだけどな。

     結局は補助金という名の税金で余計な設備を作るだけ。高速道路が太陽光パネルに代わるだけですよ。

  13. はんてふ より:

    太陽光発電をベースロードとして期待するなら、常に太陽光が当たる場所つまり宇宙空間を確保しないといけない。太陽が強い時はクーラーとかで電気いっぱい使うからいいじゃん、という反論もあるが、それはピークロードと呼ぶもの。

    光の道の議論と同じで、「そこまでいいものなら何故今まで普及しなかったのか」という疑問が拭えない。逆に経営者としてそこまでいいものなら、こっそり投資を始めて、他社が気づいた時には追いつけないように独占するのが商いの情なのではなかろうか。定款変更がここまで話題になるのも珍しい。

    本当に商人の情があるなら、「太陽光は現在ではピークロード対応しかできないものだが」と断りを入れて、その先の議論から始めるならまだ理解ができる。原発推進/反対の前提の前に、ベースロード/ピークロードという前提がある、とこの記事は読める。

  14. hiratayukai より:

    昔から「士農工商」というようにですな、商売人は汚いものと見られておったわけですわ。
    いいことは口角泡でいうが、都合の悪いことはさらっと流す。
    「夢のある話にベースもピークもあるかいな。黙って俺についてこいや」
    こんな感じかもしれませんなぁ(笑)

    日本人は脳みそが「村人」なのでいい話に飛びつきたがることを知ってるんですな。
    であとで都合の悪い事が出てくると「騙されたっ!」というんですな(笑)

    それが日本人の美点ですか(笑)

    さすがに孫氏は「日本人」がよーくわかっていらっしゃるようですな。
    100億円あったらまず震災時に繋がる基地局増やしなはれ、いうのはNGですかな(笑)

    日本村人の基本はやっぱり「士農工商」だというのが孫氏の事業計画を聞くとよくわかりますな。