大阪府の橋下徹知事が首相公選制を主張している。世論調査でも、首相公選の支持者は多い。あまりにも何度も話題になるので、中曽根康弘元総理大臣は、首相公選論を「不死鳥」と呼んでいる。中曽根氏自身が首相公選制の試案を発表している。
首相公選制(リーダーを直接選挙で選びたいという主張)の根拠は3つあると思われる。
1.アメリカの影響
最大の同盟国であり、政治的影響が多大であるため、政治制度も模倣しようということである。アメリカの民主制が特に問題なく機能しているので、大統領制が優れているかのように考えられている。
2.首相のリーダーシップ強化
内閣と与党とに権限が分裂し、首相がリーダーシップを取れない状況に不満が高まっており、アメリカ型の大統領制がリーダーシップを強化するのではないかと思われている。
3.わかりにくい選挙制度と不平等な選挙への不満
衆参両院の選挙制度は、相当詳しい人でも正確な説明ができないほど複雑である。そればかりか、選挙における一票の価値の格差は、最高裁で違憲判決が何度も出ているのに、是正が行われない。このため、投票しても、国民は政治に参加したという気分になれない。首相公選なら、一票は平等であり、投票結果がダイレクトに政策に反映されるのではないかと思われる。
これらの論拠はどれも間違っている。
1.大統領制(元首と議会の二元代表制)が民主的に機能している国は、世界中でアメリカしかない。二元代表制である限り、元首と議会との間に「ねじれ」が生じて、政治がデッドロックに乗りあげてしまうからだ。軍政とクーデターが頻発する中南米やアフリカの惨状は言うまでもないし、先進国でアメリカ以外に純粋な大統領制を採る国はない。イスラエルの首相公選制は10年もたずに崩壊した。大統領制はアメリカの特殊な政治風土の下でのみ機能するのであり、制度だけを移植してもうまくいかないだろう。
2.制度だけからみれば、議会に基盤を持たない大統領よりも、必然的に議会の支持を得ている首相の方が、リーダーシップは強いはずである。日本の首相のリーダーシップが弱い理由は、中選挙区制や、内閣法や慣例にある。中選挙区制はすでに廃止され、小選挙区比例代表並立制に切り替わったため、問題は解決された。首相の権力を弱めている内閣制度の改革は、内閣法の改正で可能であって、首相公選は必要ない。
3.選挙制度が複雑すぎるなら、シンプルに作り替えればよい。一票の価値の不平等が不満であるなら、選挙区定数割りを変更すれば良い。首相公選などという大掛かりな制度改革の必要はない。
仮に、全国一選挙区で、比例代表制とするならば、議会選挙は首相の選挙そのものになり、実質的な首相公選が達成されるだろう。(ドイツのような、小党分立を防ぐ5%ルールはあってもよい)
コメント
私も首相公選制に反対です。
鳩山前首相/菅首相が総理大臣になる前、彼がこんなにも使いものにならない政治家だということを、国民の何%が知っていましたか?
『じゃあ、首相選抜に(政党に金を払った)サポータの投票が反映される現状はどうなんだよ!』とツッコまれそうですが…
鳩山前首相/菅首相みたいな人が二度と選ばれない方式にしてほしいです。
首相公選制のメリットとは、国民が政治に直接参加する傾向を一層強めることじゃないですか?
rityabou5さんのコメントに反論ですが、鳩山前首相のように使い物にならない政治家が選ばれてしまう間接選挙制が間違っていることをあなたも認めているじゃないですか。
ダメな人が選ばれないように、首相が選ばれる前に1年くらいの予備の期間をもうけて、そこでダメな候補者をふるい落とす。結局、間接だろうが直接だろうが、しっかりした選抜期間がないとだめでしょう。
一票の格差をなくしたところで、バカな指導者が選ばれてしまうのが世の常です。選抜方式を考えることこそが、重要なんじゃないですか?
どうやって選ぶのか知りませんが、「優れた指導者」が直接選挙で選ばれたとしましょう。議会支持なしで、どうやって政治を指導するんですか?ヒトラーのように議会を廃止して総統官邸で専制政治をするならともかく、議会に立法機能を任せている限り、議会からの支持がなければ、何もできない。
この問題を解決するために、ほとんどの首相公選制試案では、立候補に議会の一定割合の支持を必要とするとか、解散権を持つなどと規定しています。
しかし、議会との関係を緊密にすれば、それは議院内閣制と変わらなくなってしまい、議会と距離を置くと、「ねじれ」のために何もできなくなるという、ジレンマが、首相公選制にはあるのです。
アメリカ大統領制が機能している理由は、長くなるので省略。
一票の格差の是正が重要というのは、激しく同意します。
ただ、それと首相公選制についての議論はあまり関係しないのでは無いかと思います。
ご提案の全国統一の比例区では、たしかに、一票の格差が是正され、かつ、首相公選と「ほぼ」同等と思いますが、議員達が好き勝手に離党や党内抗争を繰り返す状況では、現状の政治の混乱を解決できるとは思えません。
また、私が首長公選制を指示する最大の理由は、短期にころころと、国政の最高責任者が替わることを防止できることです。
21世紀に入ってから、小泉元首相をのぞいて平均在任期間約一年、20世紀も諸外国よりかなり短い在任期間だったと思います。このことが、どれだけ国益を失うことにつながったことか。
(民間にたとえれば、社長の平均在職期間1年の企業が生き残ることができるでしょうか?)
国民の支持を失った首相が長期に在任し続けるというのも、問題がありますが、昨今の混乱からはどちらのデメリットが大きいのかという気もします。
首相在任期間を長期化するために、首相公選でなくても、例えば、提案の全国統一の比例区に加えて、離党時失職 & 首相交代時国会解散といった制度にすることもいいかもしれません。
>首相在任期間を長期化するために、首相公選でなくても、例えば、提案の全国統一の比例区に加えて、離党時失職 & 首相交代時国会解散といった制度にすることもいいかもしれません。
それはドイツの政治制度ですね。法律に規定があるわけではないけれども、議会選挙時に首相予定者を明示して戦う。小政党は選挙前に連立相手を明示する。
議会選挙後に、与党内の事情で首相を変えた場合は、「公約違反」になる。首相を変えるには、解散総選挙をするしかない。だから、長期政権が可能となるのです。
「ねじれ」だけについてフォーカスして議論するのならいいんですが、直接選挙制を支持している人たちのよりどころで1番にあげられるのが、アメリカの影響、っていうのは賛成できませんね。
間接選挙制を支持している人たちのよりどころは、「伝統を維持したい」、っていうことだ、と決め付けて逆の論理を展開する人をあなたはどう考えますか?
直接選挙制を支持する人がいる正統的な理由は、「国民が政治に参加する傾向を強める」とか、「国民が持っている権利だから」とか、「メディアに候補者が露出する頻度が増えることにより、早い段階で馬脚を現す候補者をふるい落とせる」など色々ありますよ。まずは、そういった正統的な理由を批判してから、さらに「ねじれ」の起こりやすい状況を説明すると、読者がすんなり受け入れると思います。
>井上先生
愚痴になってしまいますが、この国の政治風土の中で「公約違反」がどれほど意味を持っていることか……
(公約破棄の理由に「勉強不足」を持ってくる某前首相とかもいましたし)
……ドイツで民主主義がうまく機能しているのは、30~40年代の民主主義の失敗の経験故なのかもしれませんが、少々うらやましいのが本音です。
>ダメな人が選ばれないように、首相が選ばれる前に1年くらいの予備の期間をもうけて、そこでダメな候補者をふるい落とす。結局、間接だろうが直接だろうが、しっかりした選抜期間がないとだめでしょう。
その通りだと思います。
1.選抜方式は改める必要がある
駄目な人が総理大臣になっている事は事実ですから、今の選抜方式はおかしいのだと思います。
-首相公選制にする必要があるかはわかりません
首相公選制が一番適しているのかもわかりません
2.「選挙民」が議員である現方式はおかしいかも
総理大臣になろうとする人が「国民に対して」ではなく「投票権のあるor大きい議員」に対して「投票願い」をする現状はおかしい気もします。
今までの話の流れをまとめてみたいと思います。
鳩山前首相/菅首相が総理大臣になるような失敗は二度と繰り返したくない。数年毎に首相がコロコロ変わるような事も止めたい。だから何かを変えなくてはいけない。『首相公選制』はagora_inoue氏の指摘されているジレンマのせいで決定打になりそうにない。
では、どうすればいいのか。
イ:例えば候補者が鳩山前首相、菅首相の2名だったなら、どういう選び方をしても駄目です。だから、河野氏、原口氏が立候補できるようなシステムにしないと駄目です。それだけで『菅氏/小沢氏から選べ』なんてのよりもずっとましになると思います。
ロ:候補者の能力を見極めれる事を強化しなければいけない。国会答弁なんてカンペ読んでいるだけなんで能力は見極められません。候補者がテレビでガンガン討論しあうようなことをするとか、とにかくそういう事をしないといけません。peepeepoo氏の「ダメな候補者をふるい落とす」というのも注目すべきアイデアでしょう。
能力のある者が立候補でき、彼らの能力を見極めれる場がしっかりしているのなら、間接だろうが直接だろうが「鳩山前首相/菅首相」を選ぶという失敗は繰り返さないと思います。
peepeepooさん
首相公選制が60年代に議論されたときのキャッチフレーズは、「恋人と首相は自分で選ぼう」でした。つまり、直接選挙で選びたいということが主要な動機なのだと私は判断しています。
つまり、「直接選挙」が目的であって、選出される首相のプレゼンが上手いとか、討論に強いとか、見栄えがするだろうとかいったことは、付随する結果に過ぎない。
直接選挙によって、首相の資質が良くなるのか悪くなるのかは、マスコミや投票者の行動次第ですが、少なくとも、必然的に分割政府(splitting government)を作り出すような政治システムは作ってはならないと私は考えます。
出来る限り直接選挙に近く、かつ、「ねじれ」が生じない首相選出システムとなると、ドイツ方式があります。それ以外にもないことはないですが、憲法改正を必要とし、ハードルが高すぎます。
なるほどと思いました。というか首相を直接選びたいというような希望は私は思ったことないですけど、常々思うのは、たとえば地元の首長を選ぶ際とかに候補者乱立で、毎度票が割れまくっても、それでも現職が何期も多選されるというよな状況に違和感を覚えていたもので。票が割れたときに、決戦投票とかもっとちゃんとやったほうがいいような・・・。
票の格差の問題はもっと深刻ですよね、なんでほったらかしになってるのか?みんな思ってるはず。早くなんとかしろといいたいですね。
内閣不信任案可決の場合、菅首相は解散総選挙に打って出るつもりのようですが、最高裁で違憲判決が出た定数不均衡を放置したままで総選挙をするわけにはいかないでしょう。
首相公選反対です。一票の格差の是正大賛成です。日本人は父系家族制度のため共産主義は根付かなかったようですが、強い父系リーダーシップ待望論は国民世論に根強く残ります。
日本人の強いリーダーシップへの期待 は同時に日本人の議会軽視に現れているようにも思います。よって菅総理が信奉する「民主独裁制」を更にパワーアップさせたような「首相公選」を口にする政治家がいるのだと思います。
議会軽視の名古屋市長や首相公選をいう大阪府知事は自分がヒトラーになりたいと言っていることと同義であることだと国民はとらえなくてはいけないと思います。