外国人看護師:なぜ実習が先で国家試験が後なのか

井上 晃宏

EPAに基づく外国人看護師の導入事業がうまくいっていない。1人の外国人看護師を日本で雇用するのに、2億2500万円もかかっている。日本で教育を受けさせて、看護師国家試験を受けてもらうというシステムに問題があると思われる。むしろ、日本の看護師国家試験を、外国で受験しやすくすべきだと思う。

インドネシアからは3年間で316人、フィリピンからは2年間で139人を受け入れた。だが、日本語が看護師試験の壁となり、合格者は初年度がゼロで、2年目は計3人。3年目は試験問題の難しい漢字にルビを振ったり、英語を併記するなどしたが、計16人と合格率4%に留まった。<中日新聞>

外国人看護師らの受け入れには、多額の税金も投入されている。その額は、過去二年間で約四十三億円に上る。一人当たり五百万円近い金額だ。その大半は、看護師らが就労前に受ける日本語研修の予算である。

誰のためにもならない外国人看護師受け入れ制度

さらに、受け入れた日本側医療機関は、看護助手クラスの賃金を実習生に支払っているので、3年間で600万円程度を支払っている。

2年間で合格したとしても、合格率は4%だから、官民合計で、1人の外国人看護師の雇用に、2億2500万円もかかっているのである。

受験者が日本人の場合、90%程度が合格するにもかかわらず、フィリピン人やインドネシア人の合格率がこれほど低い理由は、語学である。彼らは現地で看護師資格を持つにもかかわらず、「顔面神経」だとか、「麻疹」のような、日本ローカルの医療用語で試験を受けなければならないのである。逆に、日本人看護師がインドネシアで看護師資格取得を希望しても、インドネシア語で試験されれば、似たような結果になるだろう。

なぜ、外国人看護師に、2年ないし3年間も、看護助手の真似事をさせなくてはいけないのか。座学で憶えられない、実務的な日本語の学習、日本の医療機関の慣習を憶えてもらうという側面はあるにしても、長すぎる。実習生の間からは、「母国で身につけた専門技能を忘れてしまう」「下働きの毎日でプライドを傷つけられた」という不満が上がっている。しかも、生活費や教育費用は日本側が全額負担している。

現行看護師法によれば、外国人看護師は日本の看護師国家試験を受験することはできるが、あまりにも手続きが煩雑であり(書類の本人持参や書類の日本語訳を要求することなど)、敷居が高い。

政府がやるべきことは、看護師募集事務所を希望者の多い国に設置し、日本語能力検査と看護師国家試験を現地で施行することである。その程度なら、大して予算はかからない。合格者には、日本の医療慣行を憶えてもらうために、実務に就く前に、半年程度の研修を公費で提供するといいだろう。

看護師国家試験の合格率はどうなるかわからないが、いくら合格率が低くても、勉強の費用は本人が負担するので、問題ない。中国などには、日本企業のコールセンターが存在し、現地人を雇用しているが、きちんと日本語で応答してくれる。外国でも、需要さえあれば、日本語を学習する環境はあり、日本政府が特別に援助する必要はない。

日本での看護師業務が、日本語というハードルをクリアするほどの価値がないと外国人に判断され、誰も日本に来ないなら、事業そのものを廃止すればいい。厚労省の天下り法人を一つ整理できるという効用があるだろう。

参考:以下は日本語レッスンの内容である。日本の高校生でも、意味がわからないだろう。こんなものを日本に来て2年でマスターさせられる外国人看護師は、本当に大変だと思う。

○●○●○『看護師国家試験対策用語』○●○●○
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□■□今日の用語□ ■□ 味覚
【読み方=よみかた】 みかく
【意味=いみ】 尼語:perasa 英語:gustation
【説明】舌でみる味の感覚。化学受容体が水溶性物質を認識。咬むと唾液が出て、味がわかる。
舌には顔面神経、舌根部は舌咽神経が関与。甘味・塩味・酸味・苦味・旨味など。
五感は視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚。
【説明(せつめい)】舌(した)でみる味(あじ)の感覚(かんかく)。化学受容体(かがくじゅようたい)が水溶性物質(すいようせいぶっしつ)を認識(にんしき)。
咬(か)むと唾液(だえき)が出(で)て、味(あじ)がわかる。
舌(した)には顔面神経(がんめんしんけい)、舌根部(ぜっこんぶ)は舌咽神経(ぜついんしんけい)が関与(かんよ)。
甘味(かんみ)・塩味(えんみ)・酸味(さんみ)・苦味(にがみ)・旨味(うまみ)など。五感(ごかん)は視覚(しかく)・聴覚(ちょうかく)・嗅覚(きゅうかく)・味覚(みかく)・触覚(しょっかく)。