アゴラはもともと論争の場としてつくったのですが、あまり論争が起こらない。原発についても反対派からの投稿が少ないので、田二谷さんの記事を掲載しました。ここには「脱原発」をいう人々の思い込みがよく出ているからです。
わが国は、まず固定価格買取制度の導入から始めなければ何も進まないだろうが、その一方で既存の巨大電力事業者の重く錆びついた軛を徐々に解いていかなければ、エネルギーの大転換は早晩行き詰るのではないか。
彼の議論は「まず固定価格買取制度(FIT)の導入から始めなければ何も進まない」という話が大前提になっているが、それと「送電網の再構築などの電力の自由化」との論理的な関係はどうなっているのか。少なくとも今、国会に出ている再生可能エネルギー法案は、FITによるコスト増を「原価+適正利潤」で電気代に転嫁するしくみになっており、電力自由化と両立しない。
「再生可能エネルギーへの大転換が超広域でのエネルギーの安定供給にまで波及する」といった楽観論を具体的なデータもなしにのべる一方で、FITで補助金を出せというそれと矛盾する話が共存しているのが、彼らの議論の特徴です。それほど洋々たる未来のあるテクノロジーなら、補助金なんか当てにしないで自由競争すればいい。
前にも紹介したように、太陽光発電所の現状は、福島第一原発より広い面積で年間出力が1100万kWh。福島1号機の11時間分です。これで原発を置き換えるには、天文学的な補助金が必要になるでしょう。
そういうと「補助すれば量産効果が出る」という話が出てくるが、太陽光パネルは全世界で生産されているのだから、日本が補助してもしなくてもコストは下がる。太陽光発電のコストの大部分はパネルではなく架台の土木工事なので、設備全体のコストは20円/kWhぐらいが下限で、火力より安くなることはありえないというのがプロの見方です。
忘れてはならないのは、こうしたコストは電気代の中の「太陽光促進付加金」として消費者に「課税」されるということです。脱原発派の賞賛するドイツではFITの導入以降、電気代は50%以上も上がり、スペインは補助金で財政が破綻した。それを環境保護のコストとして日本国民が認めるなら、「エネルギーの大転換」もいいが、コストに目をつぶってバラ色の話ばかりするのは欺瞞です。
反原発派は欧州の話ばかりするが、その電気料金はアメリカの約2倍になっている。アメリカでは欧州がうらやましいという話はなく、過激な環境保護策をとったカリフォルニア州は電気代が全米一になって政策転換を迫られました。自分に都合のいい例ばかり出して精神論をいう前に、日本で太陽光発電は原発や火力より安いのか、あるいは何年たてば安くなるのかを具体的な数字ではっきりさせてください。