読者に近いメディア・専門誌の今後は果たして大丈夫か?

石川 貴善

地デジ移行も関係していますが止まらないテレビ離れ・活字離れのほか、インターネットやソーシャルメディアの日常に占めるウエイトが大きくなっています。マス媒体は厳しいと言われていますが、生活・趣味・娯楽に関連している専門誌は読者との距離が近く、休刊・廃刊するものもありますが、未だに根強く支持を保っている場合も少なくありません。
ところが先月後半に、日常的に愛読している写真・カメラ雑誌で以下のような前代未聞な事件が起こりました。

アサヒカメラ編集部よりお詫び

「アサヒカメラ」の月例コンテストの審査にあたり、編集部の不手際がありましたことを、応募者の皆様と読者の皆様にお詫びいたします。
 6月10日締め切り(9月号掲載予定)でお送りいただいた応募作品を分類・整理した箱のうち、カラースライド部門の作品を収めた箱が、審査当日になって社内で見当たらなくなりました。所在を調べていますが、現在に至るまで行方が分かっておりません。
 誠に恐れ入りますが、9月号掲載予定のカラースライド部門の審査は中止せざるを得なくなりました。本来であれば8月号に入選者のお名前を掲載する予定でしたが、これも中止せざるを得なくなりました。応募者ならびに読者の皆様に大変ご迷惑をおかけしましたことを、深くお詫び申し上げます。
 カラースライド部門に応募された皆様には、全作品について補償させていただきたいと考えております。補償内容につきましては、当方で保管しておりますご応募の受付記録に基づき、対象者の皆様に別途、書面を郵送してお知らせいたします。
 調査はなお続けております。今後、応募作品が発見された場合には、速やかにご返却申し上げます。
今回の事態を招きましたのは、編集部とは別の社内の部屋で作品を分類・整理したあと、作品の入った箱を編集部に戻す際に数をチェックしていなかったことなどが原因です。管理態勢に不備があったことを深く反省し、こうしたことが二度とないよう、今後は作品の厳重な保管と徹底した管理に努める所存です。なにとぞご理解たまわりますよう、よろしくお願い申し上げます。

写真・カメラ誌は
①カメラ・写真関連の広告が入りやすい。
②コンテスト入選がアマチュア写真家にとって重要な目標のため、老若男女を問わず人気がある。
③継続的に購読される傾向が強い。
ことから経営が苦しいと聞くこともありますが、他の分野と比較すれば堅調な人気を保っています。

内容を説明しますと今はデジタルカメラが主流ですが、カラースライド部門のコンテストは印刷媒体と相性が良いポジフィルムそのものを送付します。原版ですので代わりが利かず応募者に個別補償するとありましたが、1位賞金3万円・ポジ1点5千円・最大5点まで応募できますので、応募者1人あたり上限で5万5千円を支払うことになります。
金銭的なものは親会社の知名度もありますので、再販制度の中で部数を増やしたり別冊のムックなどを刊行すれば埋め合わせることは可能でしょうが、双方向性が最大のカギのなか、写真・カメラ愛好家の中では最も有名な媒体ですので、信用を取り戻すのが大変と言わざるを得ないでしょう。

ただ他の写真・カメラ雑誌の場合には、同様の事件が起これば存続にも関わってきますので、政界・官界・メディアを問わず日本のコアの部分が崩れていることを感じざるを得ません。
戦後高度大衆消費社会の中で、ファッション・住まい・生活・自動車・家電・パソコンなど多くの専門誌が創刊されました。その原点は花森安治の「暮らしの手帖」にありますが、出版不況が続いている中でも未だに読者の支持を得ているものも少なくありません。支持を得ている理由として、

1)生活必需品をテストした比較を知りたい
2)高額な商品購入で失敗したくないための情報収集
3)高級製品の擬似体験(スーパーカーなど)
4)通勤時や余暇の気晴らし

があります。大手紙やテレビでは、こうした専門的な詳報を得ることは難しいため、筆者のようなメカ好きは専門誌を購入したり専門サイトすることで情報を得ています。
専門的な情報が多いことや、定期的に人事異動する大手紙やテレビの記者がフォローできない情報が多いことから、専門の編集者やライターなどのインプレッションや解説記事は欠かせません。

ところが社会動向の変化やインターネットの普及などで、以下のように色々と状況が変わってきています。

・モノの平準化→日用品など「買ってはいけない」ものが減ってきた。
・読者離れ→自動車雑誌は購買力が低下し車を買う頻度が下がっているうえ、雑誌の評価軸が実際の利用パターンと乖離し(箱根の山道の操縦性など)、読者が専門サイトやクチコミサイトに移行した。
・技術革新で市場が縮小→高級オーディオなど、コアなマニアに限定された。
・ソーシャルメディアの出現→雑誌のインプレッションも読むが、ソーシャルメディアのレビューのほうが信用されるようになった。 
・雑誌のスピードでは追いつかない→コンピュータ・ガジェット類はネット情報が主体になっている。

こうしたことから他のメディア同様、難しい環境になっていることに変わりありません。大手紙やテレビの批判や新聞離れ・テレビ離れは、過去のコラムなどで触れていますがやむを得ない面があるのは確かです。
ところが専門誌の場合にはビジネスなど業務に関わる場合には本当に必要不可欠な情報であること、また専門誌の編集者やライターなどにお会いする機会がありますが、個人としては真面目で熱心な方も多いことから、インターネットやソーシャルメディアが普及している中で、戦後間近の「暮らしの手帖」のコンセプトを乗り越えた、新たなロールモデルが必要な段階に来ていると考えます。

石川 貴善(アゴラ執筆メンバー)
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Twitter @ishikawa_taka