現行の格付会社は、ただちに潰せ!

北村 隆司

スタンダード・プアーが米国債の格下げを検討していると報道されると、世界の株価が暴落し3日間で時価総額が1兆ドル減額したと言う。「格付会社」と名乗る「風評業者」に操られる現在の制度は、何かがおかしい。


信用格付けとは、格付会社の調査を基に作られた投資情報の一つで、競馬や競輪の予想屋の意見となんら変らない主観的な意見に過ぎない。投資をする際に格付会社の意見が必要なら、個別にコンサルタント契約を結ぶのが本来あるべき姿で、主観的な意見に公共性を与える事も間違っている。 

英国のビッグバンやそれに続く米国の金融自由化は、自己勘定取引とブローカーの兼業と言うやらせ機構や、場外市場での対面取引きなど透明性を奪う制度を公認し、金融市場を「いかさま」の横行する賭場に変貌させてしまった。その結果、ごく一部の人間が巨万の富を作る一方、短期間に、何度も世界的信用不安を起すなど、極刑に値する大罪も犯した。

「いかさま」の助演者として無視出来ないのが、格付会社である。格付会社は、厳しい監視の下に機械的にプレーしているカジノのディーラーとは異なり、料金を弾めばカードをこっそり見せてくれる不良集団で、正に「いかさま賭博」のデイーラーと言っても良い。

金融のいかさまの典型は「インサイダートレード」だが、これは、マフィアなどの秘密組織犯罪とおなじく、犯罪として証明するのは至難だと言われて来た。そこで米国で使われ出したのが、1970年に成立した暴力団犯罪捜査で多用される「RICO法」の適用だ。日本の改正暴対法がモデルにしたこの法律は、裁判所の許可を得れば盗聴、おとり捜査も許される極めて強い法律である。

大手ヘッジファンドを経営するインド系のビリオネアーを有罪に追い込んだのもこの法律で、裁判経過を見ると、きら星のように並んだ高名な関係者から得た秘密情報とともに、格付機関の内緒話など、いかさま金融市場の仕組みが良く判る。

格付機関が、株式や債券の発行体や引き受け機関から格付料金を徴収する事は、先生が生徒や父兄から貰う金額の多寡で、成績に手加減を加えるに等しく、即刻厳禁しなければならない。

このインチキのからくりは、2008年の金融危機の際の米国上院の審査会に出席した格付会社の多くの元社員が、手数料収入の増額と引き換えに信用格付けに手加減をくわえてきた実態を証言していた事でも明らかである。

債券や株式は勿論、その発行体の長期、短期の健全度の見通しを評価する筈の格付会社だが、2007年から表面化したサブプライムローン問題に端を発する世界的な金融危機は、金儲けを優先する格付会社が、発行体や引き受け企業から高価な料金を徴収する代りに、永年に亘り最高格付けを与えてきた「サブプライム債券」やAIG社、リーマンブラザースなどの格付けを、急に下げたのが信用不安を引き起こし、市場関係者の疑心暗鬼を招来し、信用収縮に拍車を掛けたのが原因である。

今回の米国債の格下げでも同じだが、米議会や連邦規制当局は、信用不安が拡大すると格付け会社が金融危機を助長したと非難して、金融システムにおける格付け会社の影響力を低下させるための論議はするが、強力なロビーストに一服盛られている議会は、根本改革には踏み切れない。

米国が頼れない以上、米国に比べ公共的な責任を重んずる日本や欧州が先頭に立って、現在の格付機関を一旦つぶし、新しいルールで再生を図るべきである。

新しいルールでは、株式や債権の発行体や引き受け先からの料金徴収を禁止し、投資家との守秘義務契約を結んだ顧問契約に移行する事を義務付け、格付内容を一般に発表する公共性も廃止する事が肝要である。
兎に角、格付会社を潰してでも、風評に近い意見で世界的金融危機を起こす愚は避けなければならない。