トイレを掃除するということの意味 - 青山 永

アゴラ編集部

私が店舗のレベルを計るときに重視しているのはお手洗いの清潔さです。ここに注目される方はとても多いですが、私がそれを習ったのは父からでした。
 
私の父は出版社を経営していたのですが、もういまから30年以上前に、現在でいうグルメ情報誌のようなものを発行していました。その中に「良い店の基準」というページが毎号割かれていて、10ほどの項目が上げられているのですが、その多くがクレンリネスに関わるもので、特に「トイレが清潔であること」というのが印象的でした。
 


まだ幼かった私は、なぜそんなにトイレの綺麗さが重要なのか尋ねると、父はそこにすべて表れるからだと言いました。放っておけば汚れてしまうところをどれだけ綺麗に保てるかで管理がわかる。厨房や食材庫の中に入って確認できないがトイレで結構それがわかるものだ、と教わりました。

父は妙に管理能力に厳しく、お店などでなにか不適際があるとわざわざ上長を呼び出して責めていたのを思い出します。当時はそれがとても恥ずかしくてイヤでしたが、いま思えば現場には優しかったんですね。
 
そのグルメ情報誌には、様々な文化人や経営者の方々が食にまつわる話しを寄稿してくださったのですが、父はその方々を募って、美食倶楽部のようなものも主催していました。当時は今ほどグルメ情報も出回っておらず、特に海外の有名店などにはそう簡単には行けなかったので、みんなで楽しもうというような趣旨だったと思います。
 
その席でもことあるごとにトイレの綺麗さの話になったのを今でも鮮明に覚えています。とある経営者が言うには、自分の会社では従業員みんなで毎日会社の掃除をさせていているが、それを見れば、その人間がどんな人物かわかるから、そうさせているのだと。営業で外に出て行ってしまったあとのことはわからない、でもどんな風にトイレを掃除しているかで大体のことはわかる、と言っていました。こちらは、管理する側の立場からの視点ですね。
 
経営者というのはトイレが本当に好きなようです。トイレ掃除は本当に奥が深い。
(青山 永 株式会社齊藤三希子事務所 代表取締役)