総務省は「3.9世代移動通信システムの普及等に向けた制度整備案に対する意見募集」と題する報道発表を、10月21日に行った。700/900MHz帯で提供される3.9世代移動通信システムの開設指針案を示し、これに対する意見を募集するものである。
今回の開設指針案は、900MHz帯について既存免許人が移転する費用を新規免許人に求めているのが特徴である。その費用は、総務省の見積りによると1200億円から2100億円。新規免許の希望者は負担可能な額を明示して審査を受けるが、負担できる額が同じなら人口カバー率等、事業計画の内容によって免許人が決まる。
この制度にはいくつか問題がある。第一は既存免許人の移転方法である。対象となる周波数はRFID(無線タグ)とMCA(タクシー無線)に利用されているが、1000億円以上かけて別の周波数に移ってまでMCAサービスを継続する必要があるのだろうか。タクシー無線の主な用途は配車で、そのためには個々のタクシーがどこにおり実車か空車が分かればよい。個人情報保護の観点から問題視された「カレログ」を少し修正すれば十分対応できるし、対象数はわずか20万。新規免許人に「カレログ」類似サービスを義務付ければ済む程度で、総務省の移転計画は法外である。
各社の報道によると、新規免許を希望するだろうソフトバンクとイーモバイルは、共に最高額2100億円が負担可能だという。それならば、同じ周波数をオークションにかければ、両社とも2100億円以上で入札したに違いない。オークションにかけないだけで、政府は2000億円以上を取り損なうのである。これが第二の問題点である。
900MHz帯に続いて、700MHz帯での3.9世代移動通信システムの免許人(2スロット)も選定されることになっている。この周波数帯は、テレビ放送のデジタル化によってすでに空いている。したがって、新規免許人が移転費用の負担を求められることはない。しかし、700MHz帯は900MHz帯と同様に「黄金の周波数帯」であり、オークションにかければ最低でも2000億円×2=4000億円の税外収入が期待できる。
周波数オークションにかければ期待できる税外収入額は、都合、6000億円以上に達する。復興財源を求めて増税が検討されているが、このように大きな税外収入について政治家は検討しないでよいのだろうか。朝霞の公務員住宅予算の50倍以上なのに、マスコミが取り上げないのはなぜなのだろうか。
山田 肇 - 東洋大学経済学部