日本農業を寄生虫から解放せよ -- TPPは絶好の駆虫薬!

北村 隆司

左上の写真は、東京の政治村の中心である平河町に「全国共済農業協同組合連合会」が、住宅棟「平河町レジデンス」とコンビで建設したオフィス棟である。外観も立派だが、内部の豪華さは息を呑む。
右上の写真は、東京の一等地、お堀端にあるGHQの元司令部の敷地に建てられた農林中央金庫本店のビルである。他にも沢山ある農業関連団体の豪華なビル群は、農民の血と、我々の血税を吸って生きている寄生虫が本拠とする「寄生虫会館」でもある。

TPP反対運動に名を連ねる団体の殆どは、補助金のからくりを生業とした日本の財政悪化の担い手の「寄生虫連合」であり、全農などは農民が豊かになって補助金の大義名分がなくなる事が最大の脅威なのである。
戦前の日本農業は、高額な小作料を搾り取られた小作が赤貧洗うが如き生活を強いられた事から、寄生地主制度とも呼ばれた。戦後の「農地改革」は、農業耕作者にしか土地の所有を許さない「農地耕作者主義」を採用して「寄生地主」の復活を防ぐなど、それなりの成果を挙げた。


一方、国土の狭い日本は、膨大な耕作面積を持つ米国や豪州、カナダなどの農業に太刀打ち出来ないと言いながら、戦後の農地解放で細かく分けた農地は、寄生地主が消えた後も、農業の振興より新制度で出来た既得権者を優先し「農地耕作者」主義を守り続けたために、農業の大規模経営を難しくし、先進的な農業の担い手となり得る中核的農家を見殺しにして来たのである。

日本農業の本当の障害は、都市化優先政策で土地の値上がりを期待させる「土地本位制」であり、全農支配や米優先農政等の既得権保護政策であり、TPPに代表される自由化政策ではない。
2009年にやっと成立した改正農地法でも、農家以外の農地の所有を禁止し、賃借期間も最長50年間に制限した上に、農業生産法人でない法人が借地する場合は「農業に常時専従する者」を一人以上役員とする事を条件とするなど、農地耕作主義は全く変っていない。これは、競争に依る農業の活性化を嫌う寄生虫団体の要望を取り入れた結果である。

全農の他に、農民の血と汗を吸い取る大きな寄生虫に農林中金がある。法律上は「農林水産業への資金の提供」を目的とした組織であるが、2008年3月現在61兆円の資産を持ちながら、農業関係への貸し出しは全体の16%、9兆円しかないのが実態だ。御殿の様な豪華なビルや厚生施設を満喫しながら巨額損失を繰り返し、そのたびに膨大な血税で穴埋めさせられてきた国民や農民も、寄生虫を自由競争と言う虫干しに晒して退治すべき時期である。

政府や金融に冷遇されながら、資源も設備もない劣悪な環境を自己努力で克服して、戦後日本の貿易立国を支えた自動車、弱電、カメラ等の精密機械産業の実例を見ると、現在の日本農業は遥かに恵まれている。がんじがらめの規制を振り払い「宅配」を創造して国内流通に革命をもたらしたヤマト運輸も、不利な条件に挑戦して勝利した実例である。

先日、「仕事に必要な言葉」と言う本の著者でもある島田精一さん(元三井物産副社長、前住宅金融支援機構理事長)から、「真剣になると智恵が出る、中途半端だと愚痴が出る。やる気が無いと言い訳が出る。」(トヨタ自動車箕浦専務)「覚悟に勝る決断なし」(本田宗一郎)と言うリーダーの至言を教えて頂いた。
乗用車は贅沢すぎると通産省からにらまれたトヨタや自動車やメーカーが多すぎるとお取り潰しの圧力を受けたホンダの成功の陰には、指導者の並々ならぬ「覚悟」がある事を改めて知った。

世界に誇る技術と世界的な農産物を誇る日本農業が必要としているものは自由と覚悟で、この二つさえあれば必ず未来は開ける。日本電産の永守社長の「すぐやる・かならずやる・出来るまでやる」と言う言葉も島田さんから伺った言葉だが、今の日本農業に必要な精神である。
日本でも自動車、弱電、精密機械、宅配などに限らず、危機への挑戦をこころみてトップに躍り出た産業は多い。当初は非常識だとして誰にも相手にされなかった「ユニクロ」のビジネスモデルも、ギャップやバナナリパブリック、H&Mは勿論ウォールマートも凌駕する画期的なモデルだと言われ出した。

それに対し、TPP反対派には挑戦の気概は勿論、農業自立のプランも無ければ、若者を農業に牽きつける政策も無い。
反対だけでは何も生まれない。若者を惹きつける未来的農業建設こそが必要な時、補助金を正当化するTPP反対論は無視して、日本発農業のあり方など、我が国の強さを活かせる論議に磨きをかけるべきである。
TPP反対運動の最大の被害者は、未来的な農業を目指す若者で有り、篤農家である。寄生虫がはびこる無競争、過保護の弊害は、福島原発事故を最後にしたいものである。