物言う社員を育てる大切さ

大西 宏

日本にも立派な経営者、経営で成果をあげてきた経営者のかたはいらっしゃいます。しかし、大王製紙やオリンパスに限らず、企業統治に関するほころびが次々とではじめてきています。
そういった流れのなかで、株主による代表訴訟も起こってくるのでしょうが、不思議なのは、会社経営の躓きや不祥事で被害を被るのは株主だけでなく社員もそうです。しかし社員の人たちからの声や動きはたんに報道されていないのかまったく聞こえてきません。
そこに一石を投じたのが、CEOを解任されたウッドフォード氏の早期復帰をオリンパスの社員の人たちに訴える元専務の宮田耕治さんのホームページ「OLYNPAS grass roots」です。
Olympus Grassroots :


オリンパスの社員の人たちに向けたメッセージからは宮田耕治さんのオリンパスへの思いが伝わってきます。

オリンパス従業員の皆さん、

愛するオリンパスが消滅するかもしれない、このような状況をこのまま何もせず座視することに耐えられなくなりました。社外にいるからこそ見えてくるオリンパスの危機の深さ、深刻さをできるだけ正確に理解し、それをチャンスに変えるための方策を自分なりに考えてみました。それを皆さんと共有し、今こそ立ち上がろう、と呼びかけたいと思います

それを見て思い出したのは、ある大企業でかつて社長だった方の言葉です。数々の労働争議を切り抜け、中興の祖といわれてもおかしくない方でした。当然組合嫌いだと思われていた方です。あるプロジェクトのトップ・ヒアリングで社長室でお話を伺う機会があり、思わぬ言葉がでてきたのです。「組合は大事だ」と。なぜなら組合があるから経営は真剣になる、社員がついてこないと会社はだめになる、いろいろ誤解を受けているようだけど、組合の存在は企業を強くするとずっと考えていたとおっしゃったのです。

もの言う株主の圧力も、村上ファンド事件で終わった感がありますが、さらに組合の弱体化も手伝ってか、経営に対するそんな緊張感が、成熟し安定した企業でははたらかなくなってしまったのかも知れません。

オリンパスの取締役会はまったく機能していないも同然です。オリンパスの株を所有している海外ファンドからはウッドフォード元CEOの復帰を求める声があがっていますが、オリンパスにとって重要なことは、信頼を回復することが第一で、ほとんどそれしか選択肢はないことは素人でもわかることです。

経営のトップによって、オリンパスの投資による損失を隠し続けた不祥事は、誰が経営のリーダーになろうとも解明されていくでしょうが、問題は、そこからどう立ち直るかです。信頼を失った経営陣では、株主の支持も、社会の支持も得られないことは自明だと思います。それにはウッドフォード元CEOの復帰しかないことをブログに書きましたが、宮田耕治元専務も同じお考えのようです。
大西 宏のマーケティング・エッセンス : オリンパスは、鮮やかな終章を描くことができる – ライブドアブログ :

このままで行くと、オリンパスまるごと、あるいは事業部門が解体され、買収されていく可能性も高いのですが、それはそれで、経営がより力量のある経営に移ることは自然なことです。

あちらこちらで、オリンパスが内視鏡分野の独占的な立場に胡坐をかき、ユーザー視点を忘れ、またイノベーションにも遅れてきたこと、そのためにシェアも落としてきたことが指摘されています。経営が外部に移るほうが、企業活力を取り戻す早道なのかもしれません。
社員の人たちが声をあげないのは、もはやオリンパスには経営手腕をもった人材がおらず、買収されることがもっとも自分たちにとっても望ましいことだと考えているのでしょうか。

時代の変化が急であり、企業の経営戦略、経営の質がますます問われるようになってきています。今回のオリンパス問題のような不祥事は、本来は証券取引等監視委員会が機能していればもっと早期に発見され、防げた問題のように思えますが、むしろほんとうの課題は企業の進化をつくりだす経営の力量や質のほうだということは外してはいけないことです。

ときどきいまだに、終身雇用制度や年功序列制度が日本をダメにしたと錯覚している人がいますが、それは原因と結果を取り違えた議論です。産業構造が変わらなかったから、終身雇用制度や年功序列制度が残ったのです。
ではなぜ産業構造の変換やそれぞれの企業でダイナミックな事業構造の転換が進んで来なかったのかのほうがほんとうの課題です。

日本にも立派な経営者の方もいらっしゃるし、経営成果をあげているエクセレントな企業もあります。しかし全体としては時代の変化に適応できず、弱体化してきていることは事実です。

日本は製造業で欧米にキャッチアップし、追い抜いた歴史がありますが、新興国は日本を追いつき追い越せという目標をまっしぐらです。中国のクラウドテレビへの動きなどの記事を見ていると日本が追い抜かれる日がひたひたと近づいているようにも感じます。
中国のクラウドテレビ、曇り一点もなし? 体験型コンテンツ時代のトレンド (1/2ページ) – SankeiBiz(サンケイビズ) :

野口悠紀雄教授は今年が日本の製造業の正念場と警鐘を鳴らしていらっしゃいますが、大きく経営の舵をとる人材をどう生み出し、経営力を高めるかが特に製造業の場合には課題になってくると思います。
今年は日本の製造業の正念場|野口悠紀雄 未曾有の大災害 日本はいかに対応すべきか|ダイヤモンド・オンライン :
そういった人材を生みだすためにも、あるいは外部から招聘するためにも、もう間に合わないかもしれないとしても、物言う株主だけでなく、物言う社員を育てることも必要になってくるのではないかと感じます。
巨人のゴタゴタ劇をみていても、結局は物言う社員がいないことが、経営に緊張感を失わせ、ああいった窮鼠猫を噛むということにつながったのではないでしょうか。