電波は孫正義氏のものではない

池田 信夫

ソフトバンクの孫正義社長は、きょう総務省に周波数オークション反対の申し入れをしました。彼によれば「スマートフォンが急速に普及する中、割り当てがずれ込むのは危険」なのだそうですが、これは事業仕分けで「時間がない」という理由にもならない理由でオークションに反対した電波官僚と同じです。


ソフトバンクは周波数の割当も受けないうちから、1兆円以上かけて4万局の900MHz帯の基地局を建てるなど電波部と談合して設備投資を行ない、「900MHz帯が割り当てられないと行政訴訟を起こす」などと身勝手な主張をしてきました。まるで900MHz帯は当然おれのものだといわんばかりの行動は、孫氏の「正義」の名を傷つけるものです。

実際には山田肇氏も指摘するように、来年2月に割り当ててもすぐ使えるのは上り3MHzと下り5MHzだけ。残りは2015年あるいは2018年にならないと使えない。一刻を争う必要はないのです。仙谷由人氏も指摘したように「オークションについては民主党も10年前から言っており、国会にそのむね説明すれば、夏まで待たなくてもいい」。ソフトバンクがどうしても900MHz帯がほしいなら、堂々とオークションに参加して落札すればいい。

孫氏の申し入れに対して松崎副大臣が「業界の意見を代弁した孫社長と認識は一致した」と答えたのも、あきれた話です。今週、行政刷新会議で決まったばかりの方針に反することを副大臣がいう民主党政権は、どうなっているのでしょうか。

かりに法改正に1年かかるとしても、ここでUHF帯を談合で割り当てると、もうオークションに適した帯域は残っていない。3GHz帯は使いにくいため、UHF帯の1/20以下の価格しかつかず、既存業者以外は応札しないでしょう。日本は中国や北朝鮮と並ぶ電波社会主義の国として永遠に名を残したいのでしょうか。

それよりオークションと同時に使われていない周波数を政府が買い取る逆オークションや電波を転売する第二市場を導入して、市場原理で周波数の再編を加速すべきです。欧米では、そういう制度設計が検討されています。UHF帯もMCAなどの業者に逆オークションを行なって立ち退き料を払い、所定の時期より早く移行させればいいのです。MCAについては政府の権限で特殊法人を解散すれば、すぐ全部使える。

いま日本に必要なのは、半年かそこらの「早期導入」ではなく、公正競争による新規参入と競争促進です。「光の道」のときは公正競争を激しく主張した孫正義氏が、自分の会社のからむ話になると談合を主張するご都合主義にはあきれますが、このロビイングは株主価値を最大化する経営者としては正しい行動です。それなら天下国家を語って「坂本龍馬」をかたるのはやめてほしいものです。

追記:「ドコモやKDDIは無料でUHF帯をもらったのだから不公平だ。オークションは彼らに周波数帯を返却させてからやれ」などというのは理由にならない。そんな理屈が通るなら、国有地の競売も今までの利用者に返却させないとできないのか。公正競争をいうなら「700MHz帯も一緒にオークションしろ」というべきです。