インセンティブ・オークションで電波の再配置を急げ

池田 信夫


先週、仙谷由人氏の政治決断で導入の決まった周波数オークションだが、行政刷新会議の仕分けのとりまとめは明日。まだ予断は許さない。孫正義氏は蓮舫大臣に「オークションをやめてくれ」と直訴し、総務省も桜井総合通信基盤局長みずから参議院の自民党にまで働きかけて「オークションをやったら中国資本が入ってくる」などという話を吹き込んでいるという。


こういう奇妙な情熱がどこから来るのか不可解だが、きのうの現代ビジネスの座談会で、服部武氏が「クリアな帯域ならオークションでいいが、900MHz帯は既存の利用者がいる」と反論したのを聞いて、なるほどと思った。これは今、FCCが取り組んでいるインセンティブ・オークションの問題である。

これは使われていない電波をFCCが免許人から買い上げるオークションで、当初は「電波を無料で割り当てられた免許人に金を払って買い取るのは不公正だ」という議会の反対で難航したが、これは電波を取り上げられることを恐れたNAB(テレビ業界)のロビイングによるものだった。そこでFCCは自発的インセンティブ・オークションという名前にして、今月やっと上院を通過した。

このメカニズムは、私が10年前にFCCに提案してペッパー局長(当時)が「おもしろい!」と言った逆オークションと同じだ。普通のオークションとは逆に、最低価格を出した業者から買い取るのである。これによって効率的な価格がつくことは、Vickery auctionの応用で容易に確かめられる。

FCCのジェナコフスキ委員長のいうように、スマートフォンの電波消費は普通の端末の24倍だ。タブレットは5年間で122倍に増え、こうしたモバイル端末によって今後5年間に電波の消費量は35倍に増えると予想される。このままでは帯域がパンクして、通信が寸断される危機的な状況になる。だから電波官僚が社会主義でUHF帯を7年かけて再配置するのではなく、今すぐ電波を返却する業者にはプレミアムを払って立ち退かせるべきだ。

FCCから2周遅れの日本の電波行政にとって、これは遅れを取り戻す絶好のチャンスである。MCAだけでなく、つぶれかけているローカル民放にもインセンティブ・オークションをかけて立ち退き料を払えば、喜んで帯域を返すだろう。彼らのビジネスに未来はないのだから。