昨日11月28日に開かれた現代ビジネスの座談会で最も驚いたのは、外資規制を周波数オークションの反対理由として持ち出そうという議員がいるという話だった。
電気通信は国民生活に直接関わる公益性の高い事業であり、国家の安全を確保するという目的で外資規制が設けられていた時代があった。その後、1997年にWTO(世界貿易機関)の基本電気通信合意が成立し、わが国では1998年2月にNTTとKDDを除いて外資規制が撤廃された。同年4月にはKDD法の廃止が決定され、KDDに対する外資規制も今はない。1998年2月6日付けの東京新聞には次のような記事が出ている。
世界の通信市場自由化を目指すWTOの基本電気通信合意が5日発効した。(途中省略)WTOの合意は日本を含む56カ国で発効し、それぞれの国が外国企業の参入を阻む規制を撤廃する。
日本ではKDDとNTTを除く第一種電気通信事業者に対する外資規制が撤廃され、外国電話会社が自前回線を使った事業展開が可能になる。国内事業者との資本提携も容易になるため、今後日本の通信業界再編がさらに加速することも予想される。
外資規制の撤廃後、日本テレコム系の携帯事業者J-フォンは、C&Wを経てボーダフォンに買収された。その後、2006年3月にボーダフォンは日本事業をソフトバンクに売却し撤退した。もし外資規制が続いていたら、ボーダフォンが日本で事業を営むことはなかったし、ソフトバンクが携帯事業で成功することもなかったわけだ。
ちなみに、周波数オークションに関する懇談会の報告書案には次のように記載されている。
我が国における電気通信業務用の無線局に係わる外資の扱いは、WTOでの約束を踏まえた上で、外資規制に係る一般法である外為法により適切に行われることとされていることから、周波数オークションを導入するにあたり、特段の措置を講じる必要はないと考えられる。
それでは、外資系通信事業者が通信の内容を本国に流したらどうなるのだろうか。近隣諸国への警戒感からそのような趣旨の発言をする人々がいるが、通信の内容を他に流す行為は法律で裁かれることになっている。日本国憲法には通信の秘密に関する定めがあり、電気通信事業法にはより具体的に次の規定がある。
第179条2 電気通信事業に従事する者が前項の行為(電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密を侵す行為)をしたときは、3年以下の懲役又は2百万円以下の罰金に処する。
NTTを除けば規制はないので、外資はいつでも我が国の電気通信事業に参入できる。このことは、比較審査方式でもオークションでも同じから、オークション反対の理由にはならない。外資規制を根拠に国会で議論しようとしても筋が悪すぎ誰にも相手にされないだろう。
山田肇 - 東洋大学経済学部