著者:リチャード・マクレガー
販売元:草思社
(2011-05-25)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆
周波数オークションをめぐる総務省の奇怪な行動は多くの人に理解できないと思うが、本書を読むとよくわかる。彼らはウェーバー的な合理的官僚よりも中国共産党に近い、東洋的な家産官僚なのだ。
その共通点は多いが、最大の特徴は権力が法律ではなく人事権に依存している点である。共産党で最大の権力をもっているのは「中央組織部」と呼ばれる人事部門で、総書記から地方の党組織や国有企業の幹部に至るまでの人事を集中的に管理している。その選考過程は秘密で、当事者の合意も説明もなしに配置転換が行なわれる。チャイナモバイルなど3社の通信企業のトップを、組織部が同時に交代させたこともある。
今の共産党の支配体制は、伝統的な王朝とほとんど同じである。資本家がいなくなってすべての人々が平等になる体制を共産主義と呼ぶとすれば、党の公認した民間企業の資本家が巨富を得る一方、地方の農民が貧困化している現在の中国は、資本主義である。政治的には党の支配が地方の生活の隅々に及ぶ監視社会だが、「中国では、国民は政府を恐れる必要がある。さもないと国は崩壊してしまうからだ」と、ある党官僚は言った。
こうした党中央の絶対的な権力を支えているのは、人民解放軍の軍事力である。この点は毛沢東の時代から変わらないが、最近は党と軍の関係にも変化が見えてきた。軍が装備を近代化してプロ集団として実力をつけ、党の支配にすべて従うとは限らなくなってきたのだ。特に1989年の天安門事件では、学生に銃口を向けることを拒否する将校も出現し、よくも悪くも軍の独自性が強まっている。
しかし「民主化によって権威主義的な党支配がゆらぐだろう」といった楽観論には、著者は懐疑的だ。共産党の支配は盤石とはいえないが、成長が続くかぎりその生命力は強い。経済的に力をつけた資本家は、政治的なリスクをおかそうとしない。大企業の多くは実質的に国有企業なので株主の権利は無に等しく、党の権威を認めるかぎり経済活動は自由だからである。それに共産党に代わる政治勢力はないので、その支配は少なくとも短期的には維持できるだろうというのが著者の見立てである。