朝日新聞によれば、アメリカは、今後イランの核開発疑惑を理由に、イラン産原油輸入自粛を日本に働きかける事をぼぼ決定した様である。
米財務省のコーエン次官は1日、米議会上院の外交委員会で、核開発疑惑が深まっているイランに対する圧力強化の一環として、日本を含むアジアや欧州の「緊密な同盟国」に対し、イラン産原油の輸入を減らすよう働きかける考えを示した。
安全保障の軸足を日米同盟に置く日本としては、これを受け入れるしか選択肢はない。日米同盟のコストと理解すべきと思う。
しかしながら、日米のエネルギー政策や実態の違いもきちんと理解する必要があるのも、今一つの事実である。
先ず、アメリカが原発の新設を進める事は既に3.11以降何度かオバマ大統領が表明済みである。更に、オイルシェールの探鉱、開発も新技術の開発の成功や採用が幸いし、順調である。エネルギーの中東依存を堅実に減らす事に成功している。
一方、日本は福島原発の事故を受け、既存原発による発電が難しい状況にあると共に新規原発の建設も霧の彼方と言った所ではないか。
管前首相による恣意的な浜岡原発停止要請とセットで、原発を代替するエネルギーの候補として所謂、再生可能エネルギーが、実態を理解されぬまま、まるで救世主の如く取り上げられた。そして、この動きに、目敏い政治家や実業家が便乗した経緯は記憶に新しい所である。
問題は、一年を終わろうとしている今、それなりの実績を挙げつつあるのか、否かである。寡聞にして朗報に接した事は一度たりともない。
国民生活の維持と日本経済の破綻を避ける為には停電は許されない。従って、電力会社が化石燃料に回帰するのは当然であり、供給余力の高い中東への依存を高めるのも必然である。
アメリカとは何もかもが真逆なのである。そして、高まる中東の地政学的リスクの影に怯える今日、どちらの選択が正しいのかも議論を必要としない。
エネルギー白書2010が示すものは、中東の地政学的リスクに対し脆弱極まりない日本である。
先ず、石油依存は減らしつつあるものの未だ絶対的に高い。
そして、石油の供給先は、今回自粛を求められる事になるイランの11.9%を含め中東が大半である。
アメリカの制裁に対し、イランが矛を収め核開発を中止すれば全て丸く収まる。何が問題かと言えば、これに反発したイランが暴発する危険である。
イランが暴発すれば、隣接するサウジ他湾岸産油国も無傷では居られず、対日石油の輸出が停止し日本経済がショック死する可能性を危惧する。
イランは、そもそもイスラエルへの核攻撃の野心を隠していない。サウジ、バーレーンで不当に差別されている、イスラムシーア派を支援し国の分断を図っている。
最近はイラクへの影響を強め、内戦中のシリアとシリアを支援するイラク、レバノンを影で支えている様に見える。余談であるが、ここに来てロシアがシリアへの対艦ミサイル(超音速の Yakhontミサイル)を供与した。
こういう状況を噛み締めた後、日本政府は3.11以降の謂わば泥縄とも言える一連の政策決定をきちんと精査し、修正すべきと思う。
私の思いは、昨日のアゴラ研究所設立案内に対する下記コメントとほぼ同じであるのでこれを参照する。
日本のエネルギー政策がどうも迷走していると思われ危惧しておる所に、今回アゴラ研究所をビルゲイツと共同で新たに立ち上げ、日本のあるべきエネルギー政策を提言されるとの事で今後に期待しております。3.11以降の脱原発から再生可能エネルギーの如き二者択一の不毛の議論にピリオドを打ち、今世紀もエネルギーの主役であり続ける化石燃料の安定供給を図りどう有効活用し、二酸化炭素発生を抑制する為に原発をどう有効活用するか、或いは環境負荷軽減を目指してのあるべき発電、送電のシステム設計・構築への提言等、エネルギー関連技術に留まらず、経済、外交、環境そして安全保障等全体を鳥瞰した上での専門分野掘り下げが必要と予測します。
山口巌 ファーイーストコンサルティングファーム代表取締役