子供の通う学校のグランドを除染しようとする親たちの動きがありますが、不安を煽る商売が横行する中、親が不安になるのは十分理解できます。ただ実際にグランドを除染しても、残念ながらまったくの無駄な努力になるでしょう。
仮にグランドの土をすっかり入れ替えても線量は下がりません。γ線のひていキョリと、コンプトン効果を考えれば、そのグランドから半径200mの土を入れ替える必要があり、これは現実的な方法ではないです。
線量が人体へ有意な影響がおこるかどうかはともかく、除染に有効な方法は「なにもしないこと」です。思い出してほしいのですが、核爆発が起きた土地(広島、長崎)ですら、線量もすぐにおちつきバックグランドレベルになり、人も住み続けました。ただ「なにもしない」ことは批判の対象となり政治的に難しいのもたしかです。
最近、核物理や放射線関連の研究者の間で、どのようにしたら除染できるかを議論することが増えてきています。前述したように、放っておけば線量が下がることも皆知っているし、これぐらいの線量が人体に影響が無いことを知っています。しかし皆、疑似科学的な除染ビジネスに対抗するべく真剣に除染の方法を考えています。おそらくこれから植物葉の処理、地層処分、海洋処分、干拓などの実現可能な提案がなされていくと思います。
「サイエンスの問題ではないんだ、福島の人々の安心のためなんだ」という言葉がよく研究会などで言われていますが、私はこれらの提案はすこし危険かと思っています。物理学者たちが具体的に除染方法を提示することは「物理学者たちは、福島は除染が必要なほど福島は危険な状態と言っている」というメッセージになり、逆に福島の人々に不安を与えてしまわないでしょうか?もし除染方法の提案を行うのであれば慎重な(マスコミに頼らない)開示方法を検討していただきたいです。
チェルノブイリの事故から「放射線の人体への影響は、放射線が直接及ぼす影響ではなく、精神的な障害(sub-clinical)が最大の影響であり、至急対策が必要」(2006IAEA,WHO合同会議より)という知見をせっかく得ているので、物理学者ふくめ、これに沿った慎重な行動をお願いしたいと思います。
村上(モンテカルロblog)
追記
不正確な点があったので追記します。現地で除染をしている先生方に聞くと下がったところ、土の入れ替えで下がったところと、下がっていないところがあったそうです。これは除染対象区域の外側の線量に依存するもののようです。つまり周りが低ければ、高い区域だけ除染すれば効果があります。逆に周りが高い環境で、一箇所除染しても効果は出ないかと思います。