コモディティからの転換~ハンバーガー業界が面白い~

村井 愛子

コモディティ化した商品は、価格競争に入り利益率が低くなります。業界1位の会社にとっては、既に顧客を最大化しているため、業績を伸ばそうとすると顧客単価を上昇させることになりますが、商品自体がコモディティ化しているため、なかなか難しいのが現実です。


そんな中、非常に面白い戦いを繰り広げているのが、ハンバーガー業界です。業界1位のマクドナルドは2000年代前半に価格競争の末に赤字へと転落しましたが、アップル出身の原田泳幸氏が2004年に代表に就任して黒字回復しました。その手法は、付加価値の創造による顧客単価の上昇です。2000年代半ば以降のマクドナルドは、メガマックやクォーターパウンダーといった大ヒット商品を生み出し、マックカフェと題した本格派のコーヒー販売し、店舗の形態までを変遷させてきました。原田氏によると、やっていることはアップル社にいたときと変わらず「常に顧客の想像を超えること」だと言います。実際に2006年は1.67%だった営業利益率も2010年には5.18%と飛躍的に上昇しています。

顧客の創造を超える商品を届けるには、バックグラウンドでの大改革が必要でした。原田氏が代表に就任してまず行ったのは、オーダーメイド調理システム「メイド・フォー・ユー(MFY)」をほぼ全店に導入したことです。作り置きというイメージがあったマクドナルドのハンバーガー全てを、オーダーメイド式へと転換したのです。2010年には、キッチンのキャパシティ故に全てのメニューを提供できない433店閉鎖を発表。代わりに新しいデザインの店舗出店を発表したり、ドライブスルー店を強化したりと改革を断行しています。

今までの効率化された経営手法を捨てて、利益率上昇のためにバックグランドの設備を改革するということは、並大抵のことではありません。業界1位だけに、失敗した時のリスクを考えると思いきった決断であると思います。しかも、面白いのは顧客への付加価値を高めるという施策は、普通は業界2位以降の企業がやる(し、やりやすい)はずです。

では、業界2位以降の企業はどうなのかと言うと、売上こそマクドナルドが全体のシェア7割以上を占めるのですが、なかなか面白い動きをしています。中でも大胆な戦略を取るのは業界第3位のロッテリアと第5位のフレッシュネスバーガー。

ロッテリアは「絶品チーズバーガー」など高単価だけれど質が高いハンバーガーを生み出し、大ヒットとなりました。さらに2009年には「絶妙ハンバーガー」を“美味しくなければ全額返金”というキャンペーンで販売。ネット上でも話題となり、実際の返金率も当初の試算よりも下回り、妙手によって多大なプロモーション効果を得たと思われます。

そして、最後発となる第5位のフレッシュネスバーガー。店内を見ると、徹底的に顧客を女性に絞り込んでいる様子がうかがえます。アメリカのレトロなバーガースタンド風の店内。メニューを開くと、なんと見開きの半分が飲み物のメニューです。スムージーやレモネードといった女性に好まれそうなラインナップが並び、オレンジやグレープフルーツジュースは、その場で搾りたてを提供してくれます。そしてメインのハンバーガーのバンズにはカボチャを練りこんだほのかに甘い生地を使用。商品の単価も高く、飲み物とバーガーのみでも700円以上になりますが、その分女性の満足を得られるこだわりのメニューを揃えているのです。

さて、第1位のマクドナルド、第3位のロッテリア、第5位のフレッシュネスともに、“ハンバーガー”という同じ市場の中でも、それぞれ独自の路線でビジネスを繰り広げています。他業種を見てもこんなにもユニークな戦略を持った会社が集まった市場は珍しいのではないかと思うほどです。特に、業界第4位までのハンバーガーチェーンが1970年代に創業を開始し、ほとんどのシェアをマクドナルドが獲得していたのにも関わらず1992年に1号店をオープンさせたフレッシュネスバーガーには“一見飽和市場に見えても、参入の余地あり”ということを学ぶことが出来ます。

国内市場は飽和だと言われている昨今ですが、ユニークなマーケティングと、バックオフィスを変革する実行力があれば、どの業種も参入の可能性はあるのかもしれません。

村井愛子(@toriaezutorisan)