NHKニュースによれば「非正規労働者が厚生年金や健康保険に入りやすくするため、加入条件を緩和することが検討されていることについて、スーパーやデパートなどの団体が記者会見して反対する考えを表明」したそうだ。これでは、まるで気の毒な非正規労働者の老後のための規制緩和に業界が反対しているみたいだが、問題は逆である。
厚生労働省が決めた方針は、いま週30時間以上の労働者から徴収している社会保険料を週20時間以上の労働者からも取ることだが、これを「加入条件の緩和」と報じるのはミスリーディングである。年金を運営している厚労省にとっては「非正規も入れてやる」という条件緩和だが、法人は厚生年金に強制加入なので、今回の措置は社会保険料の徴収拡大なのだ。
これによって何が起こるかについては、今年3月の記事でも書いた。まず明らかなのは、労働者の手取り賃金が社会保険料の分だけ減ることだが、企業が同額の保険料を負担するので労働者は得するようにみえる。しかし企業にとっては使用者負担は賃金の一部なので、保険料の分だけ賃金を下げる。つまり労働者の手取り賃金は、社会保険料(自己負担+使用者負担)の分だけ減るのだ。
年金保険料は老後には厚生年金として支給されるが、日本の年金会計は大幅な赤字なので、現役世代の厚生年金の支給額は保険料より少なくなる。したがって厚生年金の拡大によって、非正社員の生涯所得は確実に減る。企業の負担も増えるので、彼らが反対するのは当然だ。それは労使ともに現役世代の負担を増やし、老人の食い逃げする年金の原資になるのである。
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