IT業界の人間ならいざ知らず、Google+を知っている読者はどれだけいるでしょうか。
Google+とは、GoogleがFacebook対抗として作り上げたとされる新しいソーシャルネットワークサービスです。Google自身の公式な発表では、全世界に4000万ユーザー(米国の調査会社comScoreによれば6000万人以上)を集めており、集客速度は鈍っていると思われるも成長は止まっていません。米国ではテレビ広告でGoogle+の宣伝を積極的に行っているし、日本ではAKB48のメンバー全員を引き込んでのプロモーション開始に成功しています。
Google+の最大の特徴は、Googleの副社長でありソーシャル責任者とされるホロウィッツ氏の「Google+はサービスではなくプロジェクト」という言葉に端的に現れています。つまり、Googleは急激に勢力を広げつつあるFacebookに対抗するサービスを作っているのではなく、Google自体(のサービス全体)をFacebookに対抗できる体質、すなわちソーシャル化することを目指しているわけです。
これまで、何度かソーシャルネットワークサービスをリリースし、FacebookやTwitterによるWebトラフィックが自身の検索エンジンのそれを凌駕することを阻止しようとしてきたGoogleですが、いままではことごとく失敗してきました。そこで彼らは気づいたのです。Facebookのようなサービスを作ってもダメ、部分最適化を図ってもFacebookには勝てない。逆に、全体最適化を考えるしかない。それは検索エンジンを中軸とした自社サービス全体をソーシャル化することなのだと、Googleは理解したのです。
現在のIT業界で、最強の企業を挙げろと言われれば、Google、そしてAppleの二社が浮かぶ人が多かろうと思います。Appleは、Mac(パソコン)を軸として動画や写真、音楽などのさまざまなデータをネットワーク化していく、デジタルハブという戦略を採択することで奇跡的な復活を果たしました。その後、コンピューティングの中心が、パソコンからインターネットを介したネットワークそのものに移ってきたことで、AppleはiTunes StoreやiCloudなどのサービスを中心とした戦略にシフトします。いつでもどこでもインターネットに接続できるというメリットのために、コンピューティングの中心をうっかり”スマートフォン”と間違えてしまいがちですが、あくまでも主役はネットワークなのです。ソニーを始めとする多くの競合企業たちは、この認識の間違いのためにAppleに遅れをとっているのです。
Googleも、いままではソーシャルネットワークサービスそのものが現在のWebの主役であると勘違いしたために、いくつもの失敗をしてきました。実はそうではなく、Webの主役はソーシャル化したデータそのものであり、そこにつながるユーザーにあります。だからこそ、GoogleはGoogle+を作りました。そして、Googleのほかのサービスに都合がよい形でのソーシャルネットワークサービスではなく、自分たちの全てのサービスをGoogle+に都合がよい形に変える方向をとったのです。言ってみれば、太ってしまった自分のカラダに合わせて服を買うのではなく、理想的な服に合わせて自分のカラダをシェイプアップする途をとったわけです。
スティーブ・ジョブズに学べと、さまざまなメディアがAppleの奇跡の復活の秘密を取り上げています。そして多くの人が、そこに何らかのレッスンを受けたと言っています。しかし、部分最適化を目指してはいけない、それは意味がないことを 本気で理解している企業はやはり少ない。モバイル化なのかソーシャル化なのか、ネットワーク化なのかスリム化なのかはいざしらず。どの途にせよ、全てを変えて一気に全体最適化を目指さなくては本当の変革はない。
本当は誰もが気づいているのに、痛みを恐れて改革ができない。GoogleがFacebookからの追撃をおさえて、これからも勝者であり続けるために気づいた秘訣。それが、サービスではなくプロジェクトとしてのGoogle+なのです。
あなたの企業、僕たちの企業、自分たちの世界。そこに+(プラス)を加えていくには、ほんの小さな勇気を持てばいいはずなのです。
– 小川浩 ( @ogawakazuhiro )
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