ガラパゴる日本の家電メーカー 電子辞書の世界

鈴木 和夫

そろそろ注文したおせち料理が気になる季節でしょうか。


このおせち料理はだいたい1-2-3万円です。これと似た価格設定で、家電の電子辞書があります。安いものですと1万円以下もありますが、家電ショップで見る限り、2-3万円。申し合わせたようにおせち料理と同じ値段です。もうかる価格設定なのでしょうか。

さて電子辞書は、カシオ、シャープ、キヤノン、セイコーが主なメーカーです。
それぞれ特徴がありますが、いずれもおせち同様にコンテンツの多さを競っています。中には150コンテンツなど、わずか200グラム前後の小さな箱にぎゅうぎゅうにつめこまれます。広辞苑、漢字、古語、ことわざ、類語、方言。語学では、英和、和英、英英、英文レター、TOEIC。最近では、中国語、韓国語の辞書が人気です。ビジネス向けでは、経済、経営、会計、コンピュータ用語。TOEIC、そのほか百科事典、医学・健康、ダイエット、冠婚葬祭。中学、高校生用に社会、理科、数学、リスニングなどのコンテンツ。中には植物図鑑、サプリメント辞典、俳句季語、トラベル会話では、指さし会話中国語、晩ご飯レシピ、料理の基本などもあります。なかなか充実しているようです。

詳細を見てみましょう。英語辞書を取り上げると、英和、和英、英英1辞書タイプが多い。本格的な辞書を意識して搭載していると思われるのはセイコーです。100万語ほどもそろえたoxford、そのほかcobuild、longman、webster。ネーティブ向けは、語源から発音まで充実して、翻訳家の利用者もいるようです。英和辞書は一般的には、10万語どまり、20-30万語を備えた英英辞書は不可欠でしょう。これくらいの辞書は英語力を高めたい日本人にはぴったりと思うのですが、電子辞書メーカーの中で英語に力を入れたセイコーのシェアは5%に届きません。カシオが5割。シャープ、キヤノンが追いかけます。

辞書のほかに液晶画面が見にくかったり、使いにくかったりするのでしょうか。どうもそうではないでしょう。このセイコーの愛用者が少ない理由は、仕事などで英語を本格的に使う割合が少ないため、日本人の英語上級者数とほぼ一致すると思われます。

ところで、英語力を増すために、電子辞書をそもそも利用するか、という疑問があります。つまり、英語力が増せば、英英辞典の使用率もかなり高まるでしょう。それに最近では、スマートフォンの辞書機能が充実しています。英語上級になれば、英語充実辞書を買うかどうかは、わかりません。上級辞書購入者は多くなるとは言え、すべての人が買うわけではないでしょう。

商品として、2-3万円で売れる電子辞書は、おせちや他の商品と同じ、価格としてうまみがあるから。その価格帯で売るから、会社が維持でき、雇用が保たれるのです。コンシューマーのニーズとはかけ離れた、「ガラパゴる日本の家電商品」のわかりやすいサンプルなのでしょう。

凌駕するスマートフォンアプリの辞典

辞書アプリはスマートフォンでも人気です。特に無料で英辞郎のような優れたアプリを使え、さらに米国発のシソーラス系辞書では、発音から語源まで詳細に利用できます。

こうなると英和辞書レベルに多い10万語前後を軽く超え、iPhoneなどでは、その数倍の100万語以上の辞書が、無料か格安で使用できるのです。

日本では辞書作成は、学者だけできる高い費用がかかり、象牙の塔のような権威を着た組織が行い、供給するところでしたが、インターネットの世界が、日本家電メーカーを揺るがすでしょう。

どこへ向かう電子辞書

1979年に誕生した電子辞書マーケットは、これまでサンヨー、ソニーも参入してきましたが、すでに撤退。生き残ったカシオ、シャープ、キヤノン、セイコーも2003年に400億円を超えた電子辞書市場も現在では半分です。電子辞書は、中高年層の購入者が多いとされていましたが、リーマン・ショック以降、年々縮小化しています。中高校生の学習用や韓国、中国語に力を入れ、生き残りをはかっています。

海外サイトで英語系辞書をチェックすると、シソーラス、コロケーション、語源、さらに発音までついた辞書サイトまであり、無料で使用できます。広告収入をベースにした無料オンラン辞書のビジネスモデルです。日本とはまるで違うのです。これまでの権威ある学者が収集、執筆、監修を務めるソフトを搭載した電子辞書は、外国語という分野では、一気に崩壊してくるしょう。国内にばかり目を向けたメーカーはこれから何社生き残れるでしょうか。 (鈴木和夫)

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